「GAFAがないから成長率が低い」は間違い

では、なぜ日本は成長し、賃金を上げることができないのか。ここで見ているのは1人当たりの実質GDPや労働時間当たりの実質GDPであるから、ほぼ生産性、ということである。ではなぜ、生産性が上がらないのか。

GAFA(Google、Apple、Facebook=現メタ・プラットフォームズ、Amazon)欠如論というのがある。アメリカにはGAFAがあるが、日本にはないからダメだ、という議論だ。最近ではGAFAに代わり、FAANG(Facebook=同前、Amazon、Apple、Netflix、Google)、MTSAAS(Microsoft、Twilio、Shopify、Amazon、Adobe、Salesforce、マウントサースと読む)などという言葉も使われる(会社名が変わり、先進ハイテク企業と新たに認識される企業もあるのでビッグ・テックといったほうがよいかもしれないが、ここではGAFAとしておく)。

日本にはないから成長率が低い、という議論だ。そうすると、成長率を上げるためには日本もGAFAを生むしかない、という話になる。ではどうしたらGAFAを生めるのか、と言っても、実は誰も分からない。

補助金をつけて日本版GAFAを無理やり生む、ということは考えられるが、その補助金を日本の既存企業への課税で得るなら、そこそこ成功している日本企業の足を引っ張ることになる。しかし、ドイツにもイギリスにもフランスにも台湾にも韓国にも、別にGAFAはない。

成熟したヨーロッパでも成熟していない台湾や韓国も、GAFAはなくても賃金は上がり、成長している。日本より1割から3割、1人当たりの実質GDPが高いのだから、GAFAがないのが日本の決定的な弱さとは言えない。

日本の労働生産性はアメリカの7割以下

図表4は、学習院大学の滝澤美帆教授が作成した2017年の産業別の日米労働生産性水準の比較である(「産業別労働生産性水準の国際比較〜米国及び欧州各国との比較〜」日本生産性本部生産性総合研究センター『生産性レポート』Vol. 13 、2020年5月)。このような図は、Dirk Pilat, “ The Sectoral Productivity Performance of Japan and the U.S. 1885-1990, ” The Review of Income and Wealth, Table 4(December 1993 )以来、さまざまに作成されてきたが、現在、最も信頼できるものはこれである。

図から明らかなように、広範な産業分野で日本の生産性が低い。アメリカを100とした生産性で、製造業(建設業なども含む)全体で69.8、サービス業全体で48.7なのだから、アメリカの1人当たり実質GDPが日本の5割以上も高いのは当たり前である。図表5は、1997年の日米労働生産性の比較である。

これを見ると、アメリカを100とした生産性は、製造業全体で72.7、サービス業全体で57.3だった。