南アルプスは2本の構造線が通る危険地域

地震対応となれば、静岡工区だけでなく、山梨、長野両県の他の工区も関わり、国家的見地からモニタリングしなければならない。

何よりも、南アルプスは中央構造線、糸魚川静岡構造線が通る“世界最大級の断層地帯”であり、リニアトンネルは静岡、山梨、長野3県にまたがる南アルプスの25キロを貫通する。

国立研究開発法人防災科学技術研究所(茨城県つくば市)は高感度地震観測網(Hi-net)を全国に配備する中で、危険地域として中央構造線、糸魚川静岡構造線の周辺で集中的な観測をしている。

「赤石山脈一帯は最近約100年間で40センチもの急速な隆起を続けており、南海トラフ地震の際に急減に沈降して大被害を与える恐れがある」と主張する、石橋克彦・神戸大学名誉教授(地震学)は、著書『リニア新幹線と南海トラフ巨大地震』(集英社新書、2021年)などで、リニア工事の中止を求める議論を展開している。

石橋氏は「リニアは地球上でいちばん危険度の高い地帯に建設されている。活断層による内陸大地震や南海トラフ地震で大被害と大惨事を生じ、最悪の場合には技術的にも経済的にも復旧が困難で、廃線になるかもしれない」などと警告する。

「東海地震」説でできた地震予知法

「マグニチュード8、震度6(烈震)以上――地球上で起こる最大級の地震が明日起きても不思議ではない」

当時メディアではこのような言説が当たり前のように流れていた。

石橋氏といえば、いまから約50年前、東京大学助手の時代、1976年10月の日本地震学会で、「東海地震」という巨大地震説を発表した。

日本国内では、東海地震という予言が、衝撃的な“事実”と認められ、社会全体を揺るがす大きな問題に発展した。

石橋説から2年後の1978年6月に、世界初の「地震予知法」(大規模地震対策特別措置法)が施行された。

大地震予知を前提に、深刻な被害が予想される東海地域への影響を軽減するという、世界でも例のない法律だった。