山梨県が、観光客の殺到などを理由に今夏から富士山の入山に2000円を徴収する方向で議論を進めている。ところが、リニア問題でやたらと「自然環境保護」をうたう静岡県の川勝知事からは富士山保全の議論は聞こえてこない。ジャーナリストの小林一哉さんは「山梨と静岡では事情は違うが、山梨が行うのであれば、川勝知事も対応を考えるべきだ」という――。

富士山では弾丸登山やオーバーツーリズムが問題に

コロナ禍明けの昨夏の登山シーズン中、富士山では、夜通しで一気に標高3776mという日本最高峰に登り、ご来光を仰いだ後、その日のうちに下山する無謀な「弾丸登山」が大流行となった。

観光客らが独立峰の頂上に押し寄せるオーバーツーリズム(観光公害)によるごみ、し尿のマナー違反や自然環境への影響なども改めて浮き彫りとなった。

「弾丸登山」の注意を呼び掛ける吉田口の看板
写真提供=山梨県
「弾丸登山」の注意を呼び掛ける吉田口の看板

サンダル、Tシャツなどの軽装で頂上を目指し、体調不良や極度の疲労で緊急搬送されるケース、高山病や心臓発作で死亡するトラブルなども相次いだ。

この緊急事態を受けて、首都圏からのアクセスがよく、富士登山客がもっとも多い吉田口コースを有する山梨県の長崎幸太郎知事は2月1日の会見で、今夏から、富士山入山に2000円を徴収するとともに、人数制限などの入山規制を行う方針を表明した。

長崎知事は「富士山世界遺産登録時の(登山者抑制など)イコモス(世界文化遺産審査機関)からの『宿題』を解決していきたいが、抜本的解決からは遠い状況にある。

昨年、ご来光目当ての過度な混雑などが生じるなど、登山者数の抑制は喫緊の課題」と“宿題”解決に向けて入山規制の意義を強調した。

同じく登山口を持つ静岡県はどう対応するのか

2000円は5合目付近にゲートを設けて、「通行料」として徴収する。「通行料」の支払いは任意ではなく、義務となる。

「通行料」の名称だが、世界遺産登録に当たって静岡県とともに協議してきた入山規制のための「入山料」と変わらない。

富士山の場合、ごみ、し尿の垂れ流しといった環境問題は世界的に有名であり、過剰利用(オーバーユース)が最大の問題となっている。

もし、初めての入山規制が富士山で実施されれば、自然保護団体など世界中から、長崎知事の英断を高く評価する声が届くのは間違いない。

富士山の登山コースは、山梨県の吉田口コースだけでなく、静岡県には富士宮口コース、須走口コース、御殿場口コースがある。

しかし、静岡県の3コースでは、入山料徴収を含めた入山規制を行うことはできないし、いまのところ考えてもいない。