スリランカの有機農業の大失敗
環境にいいのなら、全てオーガニックにしたらいいと思うかもしれません。でも、ちょっと待ってください。有機農産物を作る際、有機JASの規格では「周辺から使用禁止資材が飛来・流入しないように必要な措置を講じていること」「播種または植付け前2年以上化学肥料や化学合成農薬を使用しないこと」「組換えDNA技術の利用や放射線照射を行わないこと」などと決められています。
つまり、有機栽培をする場合は、周辺の農家の理解を得る必要があります。また、効率を高める化学肥料や農薬を使わないので手がかかる一方、以前から行われている慣行農業ほどたくさん収穫することができません。病害虫や天候による被害も受けやすいことから、収穫が安定しにくいというデメリットがあるのです。
読者のみなさんは、スリランカの失敗をご存じでしょうか。「世界初の100%有機農業の国にする」と当時の大統領が目標を掲げ、肥料・農薬の輸入を禁止しました。その結果、農作物の収穫量が激減。すさまじいインフレと全国的な暴動が起こり、大統領は国外に脱出しました。スリランカの経済破綻は、オーガニックを目指したことだけが原因ではありませんが、それが大きな要因でした。有機栽培には技術と手間が必要で、収穫は減りがち――つまりコストがかかり消費者にとって割高になるのです。
物価上昇時に割高食材を使う⁉︎
近年、日本では賃金は増えないのに、物価だけが急激に上昇しています。もともとの経済成長の停滞、コロナ禍での物流の滞り、海外での戦争による燃料費の高騰、働き手の不足などのためです。
当然ながら、給食にかかるお金もかさんでいます。給食費を値上げした自治体もあると思いますが、多くは厳しい予算内で提供されているのです。国が定める学校給食摂取基準を守ろうとすると、給食の量が減ったり、質が低下したり、あるいは両方ともが悪くなります(※1)。そうしてさえ、給食を請け負う業者の倒産が相次いでいるのです(※2)。
こうした状況下で、学校給食に割高なオーガニック食材を使うべきでしょうか。私はそうは思いません。慣行農業の農作物の安全性はきちんと確かめられていますから、子どもの成長のためにカロリーや量が十分で、しかも栄養基準を満たし、なるべく多彩な食材を使った給食を供給したほうがいいと思います。これは誰にとっても同意できることでしょう。子どもは大人のミニチュアではなく成長と発達の途中ですから、大人以上に栄養が必要です。しかも、経済的に困窮している家庭の場合、毎日の学校給食が頼りということもあります。
※1 文部科学省「児童又は生徒1人1回当たりの学校給食摂取基準」
※2 産経ニュース「かさ増し肉減らし、物価高に工夫も限界 学校給食カロリー確保に悩む日々」