アマチュア野球でどんなに優れた成績を残してもプロ選手になれるのはごく一部だ。慶應義塾大学野球部出身の谷田成吾さん(30)は注目されながら4度もドラフト指名漏れの憂き目に。だが、赤字の独立リーグ球団を見事に立て直し、今、六本木の企業でFintech事業部責任者として新たなキャリアを築いている。フリーランスライターの清水岳志さんが取材した――。
谷田成吾さん
写真提供=谷田成吾

慶大野球部卒“4度の指名漏れ”30歳の現在地

2023年のプロ野球ドラフト会議では独立リーグからの指名選手が過去最多の支配下6人、育成23人が指名された。なかでも四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックス(以下、徳島)からは支配下3人、育成3人で、11年連続の指名となった。これは球団がいい選手を育て、経営が順調で素質のある選手が集まってくるという証しだろう。

谷田成吾さん(30)は、この徳島で19年12月から23年1月までの3年間、球団代表を務めた。赤字経営だった球団で就任1年目から利益を出し、3年間黒字経営を貫いた。

谷田さん自身も選手として徳島に在籍していたことがある。18年のことだ。自身はNPB(日本プロ野球機構)の選手になることを目標にし、ドラフトでの指名を待った。しかし結局、夢を果たすことはできなかった。ただ、これが縁で経営する立場になって戻り、恩返しをしたことになる。

強打の外野手として慶應義塾大学(商学部)の野球部で活躍した。それまでの球歴も、リトルリーグで世界大会準優勝、シニア(中学時代)の3年間で6回の全国大会出場と輝かしい。慶應義塾高校時代は惜しくも甲子園出場は逃したが、高校日本代表に選ばれ、AAAアジア選手権の優勝メンバーにも選出された。

慶大では1年春から公式戦に出場。4年間で15本のホームランを放っている。端正な顔立ちでスター候補生として「由伸二世」と言われた。大学の先輩で巨人の主力選手として活躍後、監督も務めた高橋由伸さんになぞらえられ、プロ野球界が注目したのだ。

慶応義塾大学野球部で活躍する谷田成吾さん
写真提供=谷田成吾

15年のドラフト会議で上位指名候補として取り上げるメディアもあった。

そのドラフト当日、寮の仲間とテレビを見ていたという。同期の山本泰寛(慶大―巨人、阪神、来季より中日)、横尾俊建(慶大―日本ハム、楽天、来季から楽天バッティングコーチ就任)が指名される中、自身の名前は呼ばれず、まさかの指名漏れとなった。

「バッティングは飛ばすことは評価されていたと思いますが、三振も多く、足りないものばかりでした。足もアピールするほど速いわけではなかったですし、守備はイップスがあって、マイナス評価だったと思います」