なぜ「今だけ無料」という言葉に人は弱いのか

【事例】
「先着100名限定」「7日間に限り割引」「今だけ無料」「○○を見たと言って頂ければ半額」などの広告を見て、買う予定のなかった物を買ってしまう。

このような「チャンスを逃すと、損をしてしまいますよ」という呼びかけに反応してしまう人間の傾向のことを、行動経済学では「損失回避性」と呼びます。

この機会を逃したら手に入らなくなるかもしれない、お得に買い物するチャンスを逃したくない(損をしたくない)という感情を巧みに操られ、購買意欲をかき立てられるのです。

家電量販店や決済サービスなどで目にすることの多い「期間限定のポイント付与」も、期限切れまでに次の購入を促すものなので、損失回避性を利用した手法だと言えます。

損失回避性について、前述したダニエル・カーネマン氏らは次のような実験で実証しています。

質問1
あなたの目の前に、以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
A:100万円が無条件で手に入る
B:コインを投げて「表」なら200万円が手に入るが、「裏」なら何も手に入らない
質問2
あなたは200万円の負債をかかえているものとし、そのうえで以下の二つの選択肢が提示されたものとする。
A:無条件で負債が100万円減額され、負債総額が半分となる
B:コインを投げ「表」なら支払いが全額免除、「裏」なら負債総額は変わらない

質問1では、ほぼすべての人が、確実性の高い「A」を選びました。質問2の場合、質問1で「A」を選んだ人であれば、質問2でも同じように「A」を選ぶだろうと推測されましたが、質問1で「A」を選んだほぼすべての人が、ギャンブル性の高い「B」を選ぶことが実証されています。

コイントスをする男の手
写真=iStock.com/DNY59
※写真はイメージです

「得」よりも「損」をしたときのショックのほうが大

この一連の結果が何を意味するかというと、

・人は目の前に利益があると「利益が手に入らないというリスクの回避」を優先する

・人は目の前に損失があると「損失そのものを回避しようとする」傾向がある

と言えます。

前述したプロスペクト理論(74ページ参照)が説明するように、人は「得」をしたときの喜びよりも、「損」をしたときのショックのほうが大きくなるため、できるだけその損を回避しようと考えるようです。

ちなみに、この特性を利用したサービスの一つが「全額返金保証」です。「購入したあとで満足できなかった場合、全額返金します」と保証されていると、損をするリスクがなくなるので、消費者の購入のハードルはグッと下がるのです。