「プラスチック製品は環境に悪い」という脱プラスチック運動で、ストロー業界は大きな逆風を受けた。年間60億本以上のストローを生産する「日本ストロー」は、一度は紙ストローへの移行を探ったが、それとは異なる「第3のイノベーション」によって業績を回復させつつある。ジャーナリストの牧野洋さんがリポートする――。(第18回、「日本ストロー編」後編)
ただでさえ輸入品に席巻されている状況なのに
(前編から続く)
2015年にウミガメ動画が拡散すると、プラスチックストロー悪玉論が先鋭化して紙ストローへの大シフトが起きた。
日本のストロー業界は震え上がった。ただでさえ輸入品に席巻されている状況で、脱プラ運動の直撃を受けかねなかった。一時は「業界自体が消滅するのではないか」といった懸念さえ出た。
そんななか、岡山のストローメーカー「シバセ工業」はオープンイノベーションに活路を見いだした。顧客発のアイデアを商品化し、新分野「工業用ストロー」「医療用ストロー」を開拓。ストローという商品の固定観念を打ち壊したという意味で破壊的イノベーションを起こしたともいえる。
一方、日本ストローは破壊的イノベーションとは無縁だった。ストローの存在価値を無にしてしまうような新製品を開発したわけでもないし、これまで想像もできなかったようなストローの使い方を提案したわけでもない。
それでも脱プラ運動にのみ込まれずに事業を拡大中だ。昔ながらの飲料用ストローを主力にしていながら、である。
切り札は環境配慮型「PHBHストロー」
日本ストローの稲葉敬次社長に理由を尋ねると、「環境配慮型ストローの開発」という答えが返ってくる。
環境配慮型ストローとは、2019年に化学メーカーのカネカとの共同開発で生まれた「PHBHストロー」のことだ。100%植物由来の海洋生分解性プラスチックを原料にしており、海洋に投棄されても自然分解するという特質を持つ。
だが、環境配慮型になったからといっても、消費者にとっては昔ながらのストローであることに変わりはない。生き残りのためには別のイノベーションが必要だ。
日本ストローにとって別のイノベーションとは何だったのか? それは「第三のイノベーション」である。