自動車や飛行機の一流メーカーから頼りにされる中小企業が、島根県安来市にある。「キグチテクニクス」は、金属疲労試験のトップ企業。いまでは確固たる地位を築いているが、2005年に金属疲労試験に参入した際には、社内が真っ二つになる激論があったという。テレビプロデューサーの結城豊弘さんがリポートする――。

なぜ飛行機に安心して乗ることができるのか

飛行機が空を飛ぶ姿に魅了される人は多いだろう。優美な機体が青い空に舞う。計算されたフォルムと削ぎ落とされたデザイン。そこには、空を飛ぶという人類の“夢”と遠隔地へのスピード交通や輸送という現代社会の現実もギュッと詰め込まれている。

考えてみると、重さ150トン以上ある機体が数百人の客と荷物を乗せ、高度約1万メートルを飛行するというのは非常に恐ろしいことだが、私たちは安全性を信じて、機内で食事や映画を楽しみ、ときに熟睡するほど安心して乗ることができている。

その安全性を支えている企業が島根県にあることをご存じだろうか。日本で初めて世界3大エンジンメーカーであるGE(ゼネラル・エレクトリック)、ロールス・ロイス、プラット・アンド・ホイットニーの認証を受け、国内外から航空エンジンの検査や金属疲労試験を担う「株式会社キグチテクニクス」だ。

「こんな田舎にグローバル企業がある?」

私の生まれ故郷である鳥取県境港市と米子市にまたがる米子鬼太郎空港から車で約30分。米子市を経由し、淡水と海水が混じる汽水湖・中海の淵を舐めるように着いたのは島根県安来やすぎ市の工場地帯「安来鉄工センター」。畑や山々の緑を抜け、キグチテクニクス本社に到着した。

島根県安来市の工場地帯にあるキグチテクニクス本社
撮影=プレジデントオンライン編集部
島根県安来市の工場地帯にあるキグチテクニクス本社

平屋造りでシンプルなデザインの社屋は、サンフランシスコのシリコンバレーに点在するIT企業を彷彿させるオシャレなものだ。「安来市に世界を相手にするグローバル企業がある」。最初にキグチテクニクスの業務内容を知った時は「こんな田舎に、そんな会社があるはずがない」と真剣に思っていた。

会社玄関で迎えてくれたのは、同社顧問でグループ企業8社を率いるキグチホールディングスの木口順一郎社長だ。「この会社が何をしている会社なのか、分からないですよね」という木口さんのいたずらっぽい言葉が図星だった。

キグチテクニクス顧問の木口順一郎さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
キグチテクニクス顧問の木口順一郎さん