大学と連携し、「未来の社員」を育てる

人材育成でも面白い取り組みをしている。2017年に島根大学と産学連携で、構造材料共同研究講座を設置。金属研究や航空機のエンジンブレードの材料研究を皮切りに研究開発と人材育成を行っている。世の中にない新素材の開発やキグチテクニクスの加工技術、試験・調査技術を学生にも伝え、共同研究につなげている。

キグチテクニクスのような中小企業が大学へ食い込むことは異例だ。すでに島根大学から同社に就職する社員も続々と生まれているそうだ。

2022年に社長に就任した貴弘さんはこう話す。「キグチテクニクスの未来への想いは社員。社員の家族が安心して暮らせることがいちばん大切。ここの会社に入って良かったと思える会社づくり。これが一番大切だ」と。

それを裏付けるように働き方改革を実践し、離職率も低い。同社HPによると、年5日の有給消化率は100%(消化日数は20年9.23日、21年9.82日)。男性156人、女性28人の社員のうち3人に2人が勤続5年以上だ。思わず「岸田総理にここに視察に来てほしいですね」と返してしまった。

疲労試験を制するものは、ものづくりを制する

「業界のトップをとり、売り上げ規模50億円を達成したい。そんなに難しい目標とは思っていません。従業員に任せて伸ばしたいだけ。事業戦略を柱にマーケティングを積極的に行い、この山陰から世界を目指しますよ」と順一郎さんは心意気を語った。

「うちの社員は仕事を受けるとき、『無理です』とは絶対に言わない」という順一郎さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
「うちの社員は仕事を受けるとき、『無理です』とは絶対に言わない」という順一郎さん

金属疲労試験は縁の下の力持ちで、人目に触れることは少ない。しかし、安全のために絶対欠かせない唯一無二の技術だ。疲労試験は間違いなく伸びるという確信と、トップを目指すという挑戦、そして地元と社員を愛すという至極まっとうな考えが、この会社をオンリーワンに導いている。

航空産業に乗り出すという順一郎さんの「ホラ」は実現した。一気通貫のフルサービス体制と高品質、世界基準の検査体制は日本のものづくりを支え、同時に世界に安心・安全を売ることになる。「疲労試験を制するものは、ものづくりを制する」。順一郎さんの言葉だ。

航空産業、電気自動車、再生可能エネルギー、社会インフラ産業、エネルギー産業、空飛ぶクルマ……。まさに現代から未来の金属の安全性を担保する検査が、島根の片田舎を中心に行われている。何も都会に住まなくても、地方から世界を目指してもいいのだ。キグチテクニクスの世界的な展開と夢に、日本のものづくりの底力と希望を見た気がする。

都会に住む私たちが知らない、すごい人と会社がまだまだあるものだ。

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