日本では聞き慣れない「第三のイノベーション」
第三のイノベーションとは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)所属の経営学者デビッド・ロバートソン氏が唱える手法だ。一言で言えば「コア商品を強化するためにコア商品周辺で補完的に行うイノベーション」を指す。
イノベーションには大きく二つある。破壊的イノベーションと持続的イノベーションだ。前者は既存商品を取り巻く環境を様変わりさせてしまうイノベーション、後者は既存商品を改良して新たな価値を生み出すイノベーションだ。
ロバートソン氏が注目するイノベーションはそのどちらにも属さない。そんなことから同氏は「第三」という表現を使っている。
実際、第三のイノベーションを実践する企業は、コア商品をそのままにしていながらコア商品の売り上げ増に成功している。具体的事例はロバートソン氏の著書『小さなアイデアが生み出すパワー(The Power of Little Ideas)』(未訳)に詳しい。
不振にあえいでいたスポーツ飲料の起死回生策
同書の冒頭に出てくる事例はゲータレードだ。1965年に米フロリダ大学の研究ラボで生まれ、同大アメフトチームに採用されて有名になったスポーツ飲料ブランドである。
ゲータレードは2001年に飲料大手ペプシコの傘下に入ると、一気に市場拡大を目指した。①新たなフレーバーを加える②低カロリー版を投入する③販売チャネルを増やす――といった戦略を取り、マスマーケット(大衆消費者市場)で勝負に出た。
それから6年後、ゲータレードは不振にあえいでいた。ライバルのコカ・コーラが投入したパワーエイドとの全面的な価格競争に陥り、市場シェアを失いつつあった。
そんな状況下で経営陣が入れ替わった。新たな経営トップは米スポーツ用品大手ナイキからスカウトされたサラ・ロブ・オヘイガン氏だった。
同氏のチームは次の対策を打ち出した。
まず、マスマーケットから撤退し、本来の顧客であるアスリート(スポーツ選手)に特化してランニング用品やスポーツ自転車などを扱うスポーツ専門店へ重点を移した。次に、夏合宿やスポーツ競技会のスポンサーになるなど、若いアスリート向けの啓蒙活動を本格化させた。