タクシー業界には多くの規制が存在する
私たちが「ライドシェアの解禁に反対」と主張すると「既得権益を守っている」というお叱りを受けます。ですが道路運送法には、タクシーの運賃や料金は「適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないもの」と定められています。総括原価方式に基づき、事業者の適正利潤は結果として常に概ね2~3%程度になるなど、タクシー業界はむしろ厳しい規制下にあります。
そのうえで全てのタクシー事業者には、乗務員になるための第二種運転免許や地理試験はもとより、乗客の安全を守るために、毎日の運行管理や車両整備管理といった厳しい規制が数多く課されています。これらを踏まえても既得権益と呼べるのでしょうか。
規制に日々縛られているタクシー業界が存在する一方で、規制が緩く安全責任の主体が曖昧なままに「ライドシェア」を認めるのは、乗客の安全確保の観点からも問題があり、また市場競争の点からも不平等です。「ライドシェア」を議論するならば、まずは「タクシーの規制緩和」を先に議論してほしいと思います。
運賃改定もあり運転手不足は改善しつつある
「運転手不足」と言われるタクシー業界ですが、減少を続けていた乗務員数は底打ちし、回復に向かっています。
タクシーの乗務員数は、コロナ前の2019年と比べ全国で2割減少し、2023年3月時点で23万1938人まで落ち込みましたが、これを境に減少がストップし、2023年10月時点では23万3452人にまで回復しています。東京では昨年15年ぶりの運賃改定もあり、おかげさまで乗務員の賃金がアップし、なり手の増加につながっています。
またタクシーアプリの普及と活用も進んでおり、アプリ活用によって一人あたりの生産性が5~10%程度向上していることもわかっています。
ライドシェアを解禁すれば、確かに簡単に運転手を増やすことはできるでしょう。
ですが、ライドシェアには安全性や雇用保護といった論点が後回しにされていると感じます。先行する海外ではすでにさまざまな問題が起きています。ライドシェアを導入すれば、「タクシー不足」が解決すると言い切るのは難しいはずです。
「ライドシェア」という目新しいキーワードを独り歩きさせるのではなく、日本の社会にふさわしい公共交通としての「移動の足を増やす」という本質に向き合うことが肝要と考えます。