高齢運転手に支えられてきたタクシー業界
各地でタクシー不足が顕在化している。駅のタクシー乗り場で長蛇の列ができる光景も珍しくなくなった。地方に行けば、タクシーがほとんどなく、移動手段に困り果てる旅行者も少なくない。
なぜこんなことになっているのか。
もちろん、背景に人手不足があることは言うまでもない。
全国ハイヤー・タクシー連合会の調査によると、個人タクシーを除くタクシー運転手の数は2019年に29万1516人だったものが、2023年3月末には23万1938人と20.4%も減少した。高齢化によって運転手のなり手が激減していることが大きい。
これに対して国土交通省は、通達を改正して10月から個人タクシーの過疎地での営業を認めると共に、これまで75歳未満だった上限年齢をこうした地域に限って80歳未満に引き上げた。
もちろんこんな付け焼き刃の対応でタクシー不足が解消されるはずはない。昨年10月時点の人口推計で73歳の人は203万人いるが、72歳は187万人、71歳は176万人、70歳は167万人と急激に高齢者の数が減っていく。いわゆる団塊の世代が労働市場から急速に姿を消していくわけだ。タクシー業界は65歳以上の高齢者が多く働く職業の典型だ。年金をもらいながら働く人も多く、これが人件費を低く抑えてきた面も強い。バブル崩壊後、深夜の高額利用も減り、バリバリ稼ごうという若者がどんどん入ってくる職場ではなくなった。日本のありとあらゆる産業で人手不足が深刻化している中で、高齢運転手に支えられてきたタクシー業界が今後も急激に人手確保が難しくなることは明らかだ。
「ライドシェア」解禁に猛反発のタクシー業界
「地域交通の担い手不足や、移動の足の不足といった、深刻な社会問題に対応しつつ、ライドシェアの課題に取り組んでまいります」
岸田文雄首相は10月23日に国会で行った所信表明演説でこう述べた。タクシー不足に「ライドシェア」で対応することを検討するとしたのだ。ライドシェアはアプリを使って利用客を一般の人が運転する自家用車とマッチングするもので、米国生まれの「ウーバー」が草分けで、スマホから簡単に呼べる手軽さから世界中に広がった。
日本での「ライドシェア」解禁に猛反発したのがタクシー業界だった。素人の運転する「白タク」では安全性が保てないというのが表向きの理由だったが、要は競合相手が増えることを嫌ったわけだ。2014年3月にウーバーは日本に上陸したが、日本の規制を突破できず、アプリで配車されるのは提携した会社のタクシーだった。その後、タクシー業界は独自にタクシー配車アプリを立ち上げ、ウーバーの存在価値は低下。結局、世界で広がっているライドシェアは日本では規制によって拒絶され続けている。ウーバーは規制のない飲食デリバリーの「ウーバーイーツ」に大きくシフトしていった。