最近、菅義偉前首相や河野太郎デジタル相など有力政治家が導入検討を唱え始めた案件がある。「ライドシェア」である。
ライドシェアは、一般の運転手が自家用車を使って有料で客を運ぶ仕組みで、米国や欧州だけでなく、東アジア諸国でも、タクシーと並んで重要な交通手段になっている。一方、日本では、交通空白地域を対象とした自家用有償制度が非営利法人に例外的に認められているだけだ。
コロナの収束後、観光客の急速な増加により、大都市、特に京都などの著名な観光地でもタクシー不足が深刻化しており、その代替的な手段として注目を浴びている。
タクシー運転手不足への対応
最近のタクシー不足の主因は、車両の制約ではなく、運転手の持続的な減少の結果である。2021年までの10年間で4割弱の減少となっており、とくに2020~21年のコロナ期には、車内感染を恐れてか運転手が急減したことが大きい(図表1)。
これは運転手の平均年齢が61歳と、全産業平均の41歳と比べてはるかに高いことと一体的であり、一般的に運転免許の返還を求められる年齢層の75歳以上でも2割強の運転手がいる状況となっている(図表2)。
職業運転手の不足は、タクシーだけでなく、大型バスやトラック運送についても同様である。いずれも、今後、2040年までの20年弱で、働き手の20~64歳人口が920万人(14%)の減少と見込まれているなかで、より根本的な改革が不可欠である。
国土交通省では、この9月に「一般乗用旅客自動車運送事業の申請に対する処理方針」の一部改正案を示し、個人タクシー事業について、従来は75歳まで更新できた年齢要件を、さらに80歳にまで引き上げるとした。
この規制緩和に対して、そこまで高齢の運転手を容認することで、乗客の安全性は保証できるのかという批判を浴びた。しかし、この運転手の年齢制限は、もともと「個人タクシー」だけの規定に過ぎず、法人タクシーでは80歳台の運転手も以前から容認されていた。
こうした高齢の運転手にまで依存しなければならないタクシー業界は、やや異常である。同じ職業運転手でも、車体が大きいバスやトラックの運転は専門職でなければ務まらないが、タクシーはそれほどでもない。一定以上の経験年数のある一般乗用車の運転手であれば、プロとアマの能力差はあまりない。むしろ、プロであっても70歳代の高齢運転手による判断能力低下のリスクの方が大きいのではないだろうか。