タクシー業界への忖度

9月17日のテレビ番組で、神奈川県の黒岩祐治知事が、タクシー会社の協力を得てライドシェアを実施する「神奈川版ライドシェア」案を表明した。これは規制緩和のように見えるが、諸外国と異なり、タクシー会社だけにライドシェアの運営を容認することが大きな違いである。

案の中身を見ると、①ライドシェアの運行管理は、地域や時間帯を限定して、タクシー会社が行うこと、②二種免許を持たない一般のドライバーをタクシー会社が面接して登録し、研修も行うことで一種免許のままでもよいこと、③自家用車をそのまま利用するが、タクシー会社が車両の安全管理を認定する、④車両には、ドライブレコーダー、配車アプリ、任意保険などを付けてタクシーと同様の基準にする、などとなっている。

これは、ライドシェアの仕組み自体は神奈川県に導入するものの、地元のタクシー会社の独占事業として、他の民間事業者を排除する方式である。

東京でスピードを出しているタクシー
写真=iStock.com/Mlenny
※写真はイメージです

過去のタクシー行政では、地域ごとのタクシー需要を政府が定め、それに見合ったタクシー台数に制限する「需給調整規制」が顕著であった。政府がタクシーの需要と供給を、直接、管理する社会主義的な仕組みであり、需要側よりも供給側の利益が優先されてきた。これは2002年の小泉純一郎政権時に撤廃されたが、2009年や13年に再び規制が強化された。

日本は本来、市場経済を基本としているが、農業やサービス分野では特定業界が大きな政治力を用いて競争を排除する例は少なくない。これに対して、過去には1980年代前半の土光臨調や小泉政権の構造改革が国民の大きな支持を得た時代もあったが、最近の政権では、むしろ改革の後退が顕著となっている。

長らく規制に守られたタクシー業界も、運転者の深刻な不足と高齢化という市場の圧力の下で、ライドシェアを受け入れざるを得ない状況に直面している。それにもかかわらず、国や自治体は規制の撤廃ではなく、既得権をもつタクシー会社に限定して容認するという論理は、その業界を守備範囲とする政治家たちにあまりにも忖度そんたくした、時代遅れで残念な発想といえるだろう。

多様な分野の事業者が参入しその創意と工夫を生かすことで、シェアリングエコノミーの主要な担い手としてのライドシェアが発展する可能性を閉ざすもので、将来の日本経済、ひいては国民にとっての大きな損失となる。

なお、本稿は制度・規制改革学会の提言に基づいたものである。

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