ライドシェアは会員制クラブ

ライドシェアは個人が勝手に料金を取って運行する、いわゆる違法行為の「白タク」ではない。タクシー会社の代わりに、米国のウーバーのようなプラットフォーム会社が運転者と利用者をあらかじめ登録して管理する、いわばデジタル技術を活用した「会員制クラブ」のような仕組みである。

基本的に、利用者がスマートフォンを用いて、乗車地と降車地を指定して配車を求めるため、タクシーのように、不特定者を対象とした流しの運転は行わない。走行距離などに応じて、自動的に算定された料金が事前に提示され、メーター料金のように遠回りして高くすることはできない。また、日本語が流暢ではない外国人でも、スマホの操作だけでほぼ利用可能である。

アメリカの住宅街をライドシェアで移動中
写真=iStock.com/adamkaz
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ところがライドシェアについては、いろいろな反対論がある。

第一に、一般人が運転するのでは、タクシー会社の乗務員と比べた運転技術の差や、犯罪の危険性、および事故が生じた場合の責任はどうなるのかというものである。

これについては、対策案がしっかりある。ライドシェアの運営会社に管理責任を負わせ、運転手の採用時における犯罪歴のチェックだけでなく、中国のように室内外のドライブレコーダーの設置や、豪州のように一定額以上の対人・対物保険の上乗せなども義務づける。また、個々の車両の位置情報をリアルタイムで捕捉するとともに、事後的に混雑する地域を回避するなど、広義の運転技能もチェックする。また、非常時の通報システムを整備することで、災害時などには、利用者がアプリで管理会社と地元警察に緊急通報できる機能も整備させる。

タクシーとの違いは、利用者が事前に運転者を選べることである。運転者の性別・年齢や事故歴、過去に利用した乗客の評価等の情報が事前に示される。また、利用者の人数が多い場合には、全員が乗れるような大型車の指定もできるなど利便性が高い。

第二に、運転者側にもリスクがある、ということだ。だが、これも事前に配車を求めている利用者についての情報が得ることができる。例えば、過去の乗車中の態度などについての運転者側の評価や、配車キャンセルの頻度などの情報を見て、乗せるかどうかを決められる。これは“流し”で拾う乗客についての情報が全くないタクシー運転手との大きな違いである。

料金はすべてクレジットカード払いで、現金払いは禁止されるため、強盗や料金不払いのリスクも小さい。また、あらかじめ乗降場所を決めたライドシェアでは、流しのタクシーのように、道端で手を上げたお客に合わせて急なハンドル操作の必要性も少ない。

第三に、ライドシェアが普及すればタクシー運転手の雇用や収入が不安定にならないかという懸念だ。これに対しては、すでに地域によって極度の不足と高齢化が深刻化している現実がある。もともとタクシーへの需要は、時間や場所で大きく変動する。最も需要が大きいのは他の交通機関がなくなった深夜だが、昼間は通勤時を除いて待機時間が長い場合が多く、時間当たりの生産性は高まらない。このため、専業の運転手だけでなく、本業の空き時間を活用したパートタイムや副業の運転手を活用しなければ、利用者の交通手段が極度に不足する現状は、今後、さらに進行するといえる。

こうした反対論がある中、前述したように、すでに兵庫県養父市など一部の交通空白地域では、一般の乗用車がタクシーの代替として公式に認められている。しかし、経営の主体は自治体や特定非営利活動法人などに限定され、一般の企業は参入できない。また、地域のタクシー会社などとの事前協議が必要となるなどの規制が普及を阻んでいる。

ライドシェアはあくまでもタクシーの補完手段という選択肢に過ぎない。「ライドシェアは不安だから反対する」という論理は誤っている。仮に、既存のタクシー利用者の一部がライドシェアに流れたとしても現行の長いタクシー待ちの行列が短くなり、ユーザーにはメリットがある。