ストロー発祥の地、岡山県浅口市に本社を構える「シバセ工業」は、飲食店向けの国産業務用ストロー生産で5割のシェアを握る最大手だ(自社調べ)。紙ストローの台頭に代表される脱プラスチック運動、新型コロナ禍の需要激減といった危機を、どのように乗り越えてきたのか。ジャーナリストの牧野洋さんがリポートする――。(第16回)

第15回から続く)

コロナ禍で飲料用ストローがさっぱり売れず

2015年に衝撃的なウミガメ動画が拡散し、プラスチックを取り巻く環境が激変した「ATTV(カメの動画後)」の世界。脱プラスチック(脱プラ)運動が盛り上がり、やり玉に挙げられたのはプラスチックストローだった。

逆風をまともに受けた筆頭格は日本一のストローメーカーであるシバセ工業だ。日本一とはいっても衰退が続くストロー業界に属しており、岡山県の地方都市に工場を置く中小企業にすぎない。社員数はパートも含めて50人で、社員1人当たり売上高は1000万円だ。

シバセ工業の磯田拓也社長。本社玄関横には大量の商品が積まれている
撮影=プレジデントオンライン編集部
シバセ工業の磯田拓也社長。本社玄関横には大量の商品が積まれている

米スターバックスをはじめとした有力企業が相次ぎ紙ストローへ移行し、先進各国が力を合わせて廃プラスチック(廃プラ)削減に乗り出した。脱プラ運動が巨大なうねりになったわけだ。

そんななか、シバセ工業はプラスチックストローの生産継続を決めた。

一難去ってまた一難。ATTV5年の2020年には新型コロナウイルスの感染爆発が起きた。飲食店が軒並み営業自粛に追い込まれたことから、シバセ工業が主力にする飲料用ストローはさっぱり売れなくなった。

脱プラ運動に続いてコロナ禍の到来。果たしてシバセ工業は大丈夫なのか?

1年で急回復した決め手はイノベーション

結論から言えば大丈夫だった。具体的に見てみよう。

2020年度(2021年3月期)の売上高は新型コロナ前(2019年度)の4億6000万円と比べ3割減の3億2000万円となり、4年前の水準へ戻ってしまった。タピオカブームの追い風で4億円の大台に乗せていた飲料用ストローの売上高が半減しためだ。結果として赤字転落となった。

ところが、である。翌2021年度になって売上高はにわかに盛り返し、早くも新型コロナ前の水準を上回った。最終損益も黒字化。コロナがなお全国的に猛威を振るっていた点を考えれば、驚異的に見える回復だった。

決め手はイノベーションだった。

一見するとシバセ工業はどこにでもある中小企業だ。個人的にも見誤った。編集部から同社取材を打診されたときに「単純なプラスチック製品を手掛ける町工場ではニュースにならないのでは」と思ってしまった。

うわべで物事を判断してはいけない。水面下で同社は創意工夫を凝らしてイノベーションを起こし、新たな市場を開拓していた。スタートアップのように新たなビジネスモデルを構築し、「ピボット(方向転換)」していたともいえる。