安い輸入品にどうやって立ち向かうか
ストローも1990年代から輸入品が日本市場にどっと流れ込んでいた状況も見逃せない。グローバル化を背景に韓国を筆頭にしたアジア勢が日本市場に参入し、低価格を武器に瞬く間にシェアを奪っていった。今では輸入品のシェアは9割に達している。
アジア勢が得意にしていのは差別化が難しい汎用ストローだ。この分野では価格がすべてであり、シバセ工業が正面から競争を挑んでも勝ち目がないのは明らかだった。
何もしなければじり貧になり、最後的には廃業せざるを得なくなる。
2005年に社長に就任した3代目の磯田拓也(63)は「多品種・少量生産」戦略に出た。「汎用品・大量生産」の真逆を行ったわけだ。個々の顧客ニーズに合った特別仕様のストローを少量生産すれば差別化できるし、価格も高めに設定できる。
言うは易く行うは難し。多品種・少量生産のためには工場設備に独自の改良を加え、口径や肉厚を自在に調整できる体制を構築しなければならない。
磯田は日本電産時代の経験やノウハウをフルに活用し、設計も手掛けた。センサーを自社開発して生産の精度を高めたり、データを可視化して品質管理を徹底したり。ローテクからハイテクへ脱皮する土台を築いたのだ。
新規参入しにくい薄肉ストローにこだわった
ストロー工場は通常「押出成形」と呼ばれる技術を使う。押出し機から溶けた樹脂を筒状に押し出し、水槽で冷やしたうえでカットする。一般的なパイプやチューブと生産方法は変わらない。
しかし押出成形でも、薄肉となると成形するのが難しい。一般的なパイプのメーカーでは、ストローのように薄いパイプを作ることができない。
理論上、肉厚が薄くなると強度が失われる。逆に言えば、高度な技術を持っている企業でなければ、強度を保ったまま薄肉化を進めることはできないということだ。「薄肉化=ハイテク化」であり、新規参入は一筋縄ではいかない。
だからこそ磯田は薄肉化にこだわり、ここに全エネルギーを注いだのである。
「うちではお客さんから金型をもらわなくても、希望通りにさまざまなサイズのストローを作れます。0.1ミリメートル単位で大きさや長さを調整できるし、短期間で試作品を納入できます」