「獺祭」から「DASSAI BLUE」へ
いよいよ獺祭のアメリカ生産が現実のものとなりました。ニューヨーク州のハイドパークで純米大吟醸を造り始めたのです。
アメリカで造られる酒は、「DASSAI BLUE」(獺祭ブルー)と名付けます。なぜBlue(青)という言葉を付けるのか?
「青は藍より出でて藍よりも青し」という言葉があります。青の染料は藍色の染料から生まれたのですが、藍よりも青かった。それが転じて、子が親を抜くなどの意味で使われます。アメリカで造られる「DASSAI BLUE」が、日本の獺祭を美味しさで抜いてほしい。その願いを込めて命名しました。
獺祭の出荷数量は1ランク落として純米吟醸として見ても、日本全体の11%程度を占め、1位です。統計がないので必ずしも正確とはいえませんが、純米大吟醸だけで見れば、全体の3割以上を占めるのは確実だと思います。幸い、海外でも高い評価を受けております。
2022年度、獺祭の売り上げ165億円のうち43%を占める70億円が、実は海外輸出によるものです。22年の日本酒全体の輸出額は約475億円ですから、獺祭はその15%を占めているわけです。
三重苦からの挑戦
いまでこそこうした評価を受ける酒を造っておりますが、私が旭酒造を継いで3代目の社長になった1984年当時、私たちの蔵では、地域のマーケットを対象に何の特徴もない安酒を売っていました。
山口県岩国市という人口10万足らずの小さな地方都市の中でさえ、酒蔵としての売り上げ順位は4番目に過ぎませんでした。販売競争に負けて過去10年間で売り上げが3分の1になってしまっていたのです。技術もない、売り上げもない、しかも所在地は猛烈な過疎にあえぐ山間の僻地にある、という三重苦にあえいでいたのです。
そんな中で従来の地元対応の安いだけの酒を造っていたのでは、先が見えません。そこで純米大吟醸を開発して、地元に見切りをつけて東京市場に進出することにしたのです。