岸田文雄首相は先月行われた臨時国会の所信表明演説で皇位継承策に言及し、その翌週には自民党主導で国会の合意形成を進めるという姿勢を明らかにしている。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「ようやく政治が動き始めたように見えるが、岸田首相の発言を読み解くと、現在の皇位継承順位を変更せず、皇族数の確保だけにとどまる可能性がある。しかしそれでは、肝心の『皇位継承の安定化』にならないばかりか、ジェンダー平等に強く共鳴されている秋篠宮家の方々のお気持ちを裏切ってしまうことになるのではないか」という――。
危機を招く無理のあるルール
天皇陛下の次の世代の皇位継承資格者は、今のルールの下ではたったお一人。秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下だけだ。
その悠仁殿下はこれまで、軽い交通事故に遭われたり、テロ未遂事件に巻き込まれたり、危険な場面にも遭遇されている。
憲法上、天皇は日本国および日本国民統合の象徴とされ、内閣総理大臣や最高裁判所長官を任命し、国会を召集し、法律を公布するなど、国家の運営に欠かせない重要な国事行為にあたられる地位だ。その地位の次代への継承が、目の前で大きな不安に直面しているのが実情だ。
いつまでも対策を先送りしてよい問題ではない。
皇位継承の不安定化の原因ははっきりしている。皇室では、一夫一婦制の下で一般社会と同じく、決して多産な状態ではない。それなのに、正妻以外の女性(側室)が生んだお子様にも皇位継承資格を認める古い制度があってこそ持続可能だった、明治の皇室典範以来の「男系男子」限定という今や世界中でほとんど類例を見ない無理なルールが、そのまま維持されている。
これが危機の元凶だ。
20年間放置されていた提案
今もルール上、皇位継承資格を認められていない内親王・女王方は、複数おられる。だから、もし皇室継承の安定化、皇室そのものの存続を望むならば、こうした旧時代的な“ミスマッチ”のルールを見直すしか方法はない。
平成17年(2005年)に政府へ提出された「『皇室典範に関する有識者会議』報告書」には、具体的・現実的な解決策が明記されていた。皇室典範を改正し、歴史上かつてないほど窮屈な皇位継承資格の“縛り”を広げて、女性天皇・女系天皇も可能にするという方策だ。
しかしその後、じつに20年近くもこの提案は放置されたままだった。政府・国会はその間、無為怠慢を続けてきた。
ところが近頃、ようやく事態が動く可能性が見えてきた。