2023年上半期(1月~6月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします――。(初公開日:2023年4月25日)
日本経済はこれからどうなるのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「日銀の新総裁に植田和男・元東大教授が就任した。優秀な学者だが、異次元緩和の後始末は誰がやっても不可能だ。近い将来の日本円の紙くず化は避けられないだろう」という――。
辞令交付後、握手する日銀の植田和男総裁(左)と岸田文雄首相
写真=時事通信フォト
辞令交付後、握手する日銀の植田和男総裁(左)と岸田文雄首相=2023年4月10日、首相官邸

日銀の植田新総裁は、日銀を正常化できるのか

4月9日、日銀の植田和男新総裁が就任し、新体制がスタートした。

黒田前総裁が10年続けた「異次元の金融緩和」で国債の爆買いを続け、日銀財務は大幅に悪化した。市中にお金をばらまき、副作用が目立ち始めている。日銀はもはや元には戻れない危険な状態になってしまった。

これをどう正常化できるか、「異次元緩和の出口」をどうするか、植田新総裁の手腕が問われることになる。

植田総裁に残された選択肢はあるのだろうか。

これが本稿のテーマである。

日本金融学会の機関誌『金融経済研究』2023年3月号で、名古屋大学の齊藤誠教授は「現在の国債管理政策の終息は決して軟着陸とは言えないものの、全乗客の絶望という壊滅的な墜落というよりは、どうにかこうにか全乗客の無事を見通すことができる不時着陸といえるような事態であろう」と指摘している。

かなり日銀出口に関して悲観的な考えをお持ちの先生でさえ、悲惨な結末を予想していない。総裁職を引き受けてしまった植田総裁も、齊藤教授同様「全乗客の無事を見通すことができる不時着陸が可能」と判断したからだろう。

「マーケットを甘く見過ぎている」のではないだろうか。マーケットに対峙たいじした経験のある日銀マン、元日銀マンはその怖さを知っているからこそ総裁職から逃げたのだと私は思っている。

現状分析においては私と同じでも、将来予想の点で意見が違うのは学者とトレーダーの違いかもしれない。

もはや不時着は不可能、日銀は墜落するしかない

余談だが、私がモルガン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)東京支店長だった1997年、当時世界最大のヘッジファンドオーナー・ジュリアン・ロバートソン氏が私のオフィスにやってきた。

その時、彼が連れてきた世界的有名なエコノミストを私の面前で怒鳴りつけた。今でも鮮明に覚えている。ジュリアンが私に将来のマーケット予想を聞いてきた最中に、エコノミストが口をはさんできたからだ。

「君たち(=エコノミスト)の仕事は過去を分析すること。将来を予想するのはタケシや私たちのようなリスク・テーカーの仕事だ、黙ってろ!」と。

リスク・テークを生涯の仕事としてきた私の予想は、日銀の財務内容がここまで悪化した今となっては、総裁の交代でも何ら変わらない。

名古屋大学の齊藤教授が否定的な見解を示した「全乗客の絶望という壊滅的な墜落」こそ、日本に待ち受ける未来だと思う。つまり円の紙くず化・中央銀行のとっかえは不可避である、と言うことだ。

財政赤字を放任し、危機先延ばし策の異次元緩和(=財政ファイナンス)を行ってきたツケである。