※本稿は、永井竜之介『分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考』(CROSS-POT)の一部を再編集したものです。
当たり前のように言われる「迷惑をかけないように」
この言葉を、当たり前のように色々な場面で耳にします。「他人様に迷惑をかけないように」「家ではいいけど、外ではちゃんとして」と言われ、社会や公共の場で、モラルやマナー、ルールを守ることを多くの人が大事にしています。
何をするにも、自分や家族といった「身内」の手が届く範囲で、自分たちの責任の内側で収まるように心がけるでしょう。
もちろん職場でも、できるだけ迷惑をかけないようにします。上司や先輩など、目上の人に迷惑はかけられません。対等な関係やライバル的な関係にある同僚にも、迷惑はかけたくありません。自分がリードしてあげる立場にある後輩には、なおのこと迷惑はかけるべきではありません。
取引先や「お客様」に迷惑をかけるなんて、もってのほかです。だから、誰にも迷惑をかけないように、仕事で「ミスしない」ばかりが重視されていくわけです。
「迷惑をかけないように」はどんどんエスカレートしていくことがあります。プライベートの友人にも、迷惑はかけたくありません。さらに「家族に迷惑はかけられない」までいってしまうと、もう誰にも迷惑をかけられなくなります。
そうして、何をするにも自己責任で、1人でビクビクしてしまい、働きにくく、生きづらくなるのです。
VISAの「後ろを待たせない!」が刺さるのは日本人だけ
VISAのクレジットカード「タッチ決済」を知っているでしょうか。ICチップの付いたクレジットカードを使うことで、カードを読み込んだり、暗証番号を入力したりする必要なく、端末にカードをタッチするだけですぐに支払いを完了できるサービスです。
カードを不正に読み込まれることも、暗証番号を誰かに見られることもなく、安心・安全で、しかも手軽で速く、これまで以上に買い物をスムーズにできます。
そのCMでは、さまざまな場面でスムーズな支払いに満足するユーザーの様子が描かれていますが、コンビニ篇(※1)では、コンビニのレジでタッチ決済を利用する場面で、このような明るいナレーションが入ります。
「タッチするだけだから、後ろを待たせない!」
タッチ決済で、素早く支払いができるため、会計待ちの行列の後ろに並ぶ人に迷惑をかけずに済むことを、サービスのメリットとして強調する内容です。
この「お店で、見ず知らずの他人に迷惑をかけずに済む!」が、新サービスの大きなメリットとして評価されるのは、世界中を探しても日本くらいなものです。
(※1)VISAのタッチ決済「コンビニ篇」は、2021年12月22日(水)からテレビやオンラインで公開された動画広告。