なぜ日本企業ではイノベーションが生まれにくいのか。高千穂大学准教授の永井竜之介さんは「ビジネスにおいては“サイエンス”と“アート”の両方が重要だ。だが、日本のビジネスではデータに基づくサイエンスが重視されすぎている」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、永井竜之介『分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考』(CROSS-POT)の一部を再編集したものです。

「みんなが言っている」ように見える“誰かの正論”

× みんなが言っているし、当たり前でしょ

今は、特にネットやSNSを中心に、「みんなが言っている」かのように見える、誰かの正論があふれています。しかし、それが「自分にとっての正解」になるとは限りません。

そもそも、「みんなが言っている」ように見えても、少数の声の大きな誰かが叫んでいるだけで、本当は多数派の意見でもなんでもないことも多いでしょう。また、多数派の意見だったり、かつての通説だったりしたとしても、それを、今の自分にとっての正解として受け入れるかどうかは、あくまで自分が決めていいことです。

当たり前、常識、前例、セオリー、普通、暗黙のルール……これらを安易に受け入れることで、単純化したり、思考停止したり、楽をしようとしたりせずに、しっかりと自分の頭で考え、自分にとっての正解を探して、作っていくマインドを身につけましょう。

「頭のほぐし」専門店として誕生した「悟空のきもち」

日本で初めての「頭のほぐし」専門店として誕生した「悟空のきもち」は、創業者の金田淳美さんが、「自分にとっての正解」を作っていくことで成功を掴んだ事例として紹介できます(※1)。2008年に京都で創業した「悟空のきもち」は、サービスを受けると10分で眠りに落ちる「絶頂睡眠」が大きな話題を呼び、メディアでたびたび取り上げられて、50万人を超える予約待ちが続くほどの人気店です。

頭をほぐすイメージ
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

小さな頃から「社長になりたい」という夢を持っていた金田さんは、働きながら経営を学んでビジネスを考えられる仕事として、会計士の道をまず選びました。会計士の仕事をする中で、頭痛や、眠っても疲れが取れない症状に悩まされていました。

そこで思いついたのが、頭をほぐして癒すことに特化したビジネスでした。当時、頭の癒しに特化したサービスは存在しておらず、「ないなら、これは私にしかできない」と決意し、会計士をやめて起業したといいます。

「頭を癒す」というビジネスには前例がなく、何が正解か分からない状態からのスタートでした。当時あったマッサージやエステなどを片っ端から自分で受けてみながら、勉強と実践を積み重ね、ある程度の技術を身につけたところで1号店をスタートさせます。

そこで、お客からフィードバックを受けながら独自の技術を確立していき、21の手法を用いるドライヘッドスパを編み出しました。そうして2015年から始めたのが、心地よい睡眠に誘う「絶頂睡眠」を提案するサービスでした。

(※1)NEWSPICKS「【京都】予約殺到の頭ほぐし店は、経営計画も役職もない」、東洋経済ONLINE「悟空のきもち『51万人予約待ち』強烈人気の裏側」を参照。