ソニーの「ウォークマン」は“直感的な判断”から生まれた

例えば、かつて世界に衝撃を与えたソニーの「ウォークマン」は、創業者の1人、井深大さんの直感的な判断から生まれた商品です。まだ飛行機に映画や音楽を楽しむ機内サービスが存在していなかった時代に、「東京とアメリカを往復する機内で音楽が聞きたい」という井深さんの個人的な思いがきっかけになりました。そこから、いつでも音楽を楽しめる、持ち運び可能な小型オーディオプレーヤーの開発が始まったのです。

この商品について、事前調査をしてみると、ほとんどの人が関心を示さなかったため、社内からは不安の声が多くあがったといいます。

しかし、こうしたデータよりも、自分たちの「独自のビジネス勘」を重視することを選びました。また、当時の技術では、小型サイズに再生機能だけでなく、録音機能も搭載できましたが、これも「機能が2つあると、何に使う商品なのか分かりにくくなるから、再生機能だけでいい」と直感的に判断し、再生専用機として開発・発売することにしました。その結果、ウォークマンが世界的なヒットを記録したのは周知の通りです。

サイエンスは万能ではない

このように、データに表れない真実に迫るために、アートは重要な役割を発揮することができるものです。データに基づくサイエンスが重要なことは確かですが、サイエンスは万能ではありません。

『分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考』(CROSS-POT)
永井竜之介『分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考』(CROSS-POT)

過去のデータは、あくまで過去のもので、未来を言い当てられるとは限りません。同じことでも、実行する人・環境・時期が変われば、結果も変わる可能性があるのは当然です。また、客観的なように思えて、データは意外に不確かなものでもあります。

サイエンスとアート。つまりデータと直感は、どちらも持ち合わせておくべきものです。「データを踏まえた直感」や「直感的に納得できるデータ」を根拠として、思い切った行動を取っていけばいいのです。サイエンスだけに頼りきると、まだデータのない、新しいことにはチャレンジできなくなってしまいます。日本から、イノベーションや起業が減っていったのには、このサイエンス偏重も原因の1つになっているでしょう。