4~5分の照射で施術は終わり

つまり光免疫療法は「がん細胞だけを狙って殺す」「何度でも治療できる」「9割のがんをカバーする」ということになる。

光免疫療法が広く実用化されたら、そんな未来が待っているのだ。

がん検診でがんと診断されたとする。自分のがんが光免疫療法のカバーする9割のがんだということがわかり、光免疫療法での治療を選択したとする。

私たちはまず病院に行き、IR700を含む薬剤を点滴される。薬が患部に充分に行き渡る時間が必要だが、その間はただ待っていればいい。その上で医師の元に行き、患部に近赤外線を照射してもらう。強い光で細胞を焼くわけではないのに、がん細胞は照射の瞬間から壊れ始める。3センチ程度のがんであれば4~5分の照射で施術は終わるだろう。その後は体内に残った薬剤と壊れたがん細胞の排出を待つだけだ。

さらに普及が進めば、私たちはがん検診すら必要なくなるかもしれない。定期的に病院に行って薬剤を飲み、近赤外線の照射を受けておけば微小なうちにがんを退治できる。

芹澤健介『がんの消滅 天才医師が挑む光免疫療法』(新潮新書)
芹澤健介(著)、小林久隆(医学監修)『がんの消滅 天才医師が挑む光免疫療法』(新潮新書)

そんな未来が来たならば、それは私たちががんという病から解放されることを意味しないだろうか。

かつて結核は「死の病」だった。

だが医学の進歩はその恐怖の記憶を遥かな過去に追いやった。

がんはどうだろう。

光免疫療法は実際にがん細胞を殺し、消滅させるだけでなく、私たちの「がんの記憶」さえ消すかもしれないのだ。それは「がんの消滅」と言ってもいいのではないか。

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