他の細胞が傷付く

標準治療における従来の「三大療法」と免疫療法の何が大きな違いなのかを見ていこう。

それぞれの治療法にメリットとデメリットがある。

「外科療法(外科手術)」は、がん細胞を完全に切除できれば体内からがんを消すことができ、「最も直接的かつ根治の可能性が高い」と言われる。

その一方で、当然のことながら、正常細胞も傷つける。どんな天才外科医でも、細胞レベルで選り分けて、がん細胞だけを取り除くことは不可能だ。大腸がんや早期の胃がんなどで内視鏡や腹腔ふくくう鏡を使うなど患者の負担が少なく済む手術もあるが、開腹手術や開頭手術となると術後の負担も大きい。臓器や体の部位を温存できないことももちろんありうる。

がんは成長すると原発巣、つまり元の発生場所から周囲の組織に浸潤したり、血液やリンパ液の流れに乗ってほかの臓器やリンパ節に転移する。そのため原発の腫瘍を切除するだけでなく、転移の可能性がある箇所も取り除く必要が出てくる。これを「郭清かくせい」と言うが、がん細胞の取りこぼしがないよう、マージンを大きく取っておくのが一般的だ。

がんの進行により、切除箇所を広げる術式を「拡大手術」と言うが、80年代に医師となった小林によると、「腹腔鏡手術が普及する90年代までは、身体の中がほとんど空っぽになるような拡大手術を受けた患者も少なくない」とのことだ。

放射線治療のリスク

「放射線療法(放射線治療)」は放射線(高エネルギーX線、電子線、陽子線、重粒子線、α線、β線、γ線など)でがん細胞のDNAを傷つけて死滅させる治療法だ。体を切らずに治療できる。治療中の痛みもなく、体への負担が比較的少ない、外科手術が難しい場所にあるがんでも有効、などといった利点がある。

がんの放射線治療を受けている女性
写真=iStock.com/Mark Kostich
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とはいえがん細胞を殺すほどの放射線を照射するので、がん細胞の周囲の正常細胞もダメージを受ける。近年ではよりピンポイントに照射ができるようになったが、それでもがん細胞だけに照射するのは不可能だ。

照射によって患部周辺の幹細胞が死滅してしまえば、がん細胞が死滅した後も組織を再生させることができず、いわば「焼け野原」のような状態が残ってしまう。

また、放射線感受性が高い免疫細胞などはほぼ死滅することになり、免疫機能は低下せざるを得ない。全身のだるさや吐き気といった副作用を伴うことも多い。同じ場所に再発した場合は、初発の際に照射した放射線量を考慮すると、定められた耐容線量を超えてしまうため再び放射線治療を受けられないことがほとんどだ。