あくまで軍隊ではないという建前は今も変わらない

あくまで警察という建前ですから、軍隊の階級は使いません。大佐を「一等警察正」、中佐を「二等警察正」、少佐を「警察士長」などと呼びました。「歩兵」「工兵」ではなく「普通科」「施設科」、「戦車」ではなく「特車」と言い換えました。

その後、組織の再編・拡充が行なわれ、1954年には陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊が揃ったいまの自衛隊ができあがります。現在では自衛官約23万人からなる世界でも有数の軍隊並みの組織に成長しています。

しかし、あくまで軍隊ではないという建前は変わりません。「軍事費」ではなく「防衛費」、「爆撃機」ではなく「対地支援戦闘機」と呼ばなければなりません。

ただ、このきわめて政治的な建前は、自衛隊が活躍する海外の現場では理解されにくいようです。

「日本海軍」として、音で海賊たちを追い払う

2011年、私はアフリカ北東部のジブチで自衛隊の活動を取材しました。ソマリア沖のアデン湾では、スエズ運河に向かうタンカーや貨物船を狙う海賊が頻繁に出没していました。

船舶の安全を守るために世界各国から軍艦が派遣されているアデン湾に、自衛隊も国際協力の一環として護衛艦や対潜哨戒機P3Cを配備していました。上空から不審な船舶を監視し、タンカーに乗り移るためのハシゴなどが積んであるのを発見すると、近くにいる日本の護衛艦あるいは他国の軍艦に連絡。軍艦が急行して海賊を捕えたり、追い払ったりしています。

自衛隊
写真=iStock.com/Takosan
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海上自衛隊の護衛艦がパトロール中に直接、海賊の船を見つけた場合は、スピーカーでアナウンスして追い払います。英語とアラビア語、ソマリ語、スワヒリ語でアナウンスするのですが、その英語の文章を見て驚きました。「This is Japan Navy」。つまり「日本海軍である」とアナウンスしているのです。

「『海軍』でいいんですか?」と現地で聞いたところ、自衛隊の人は「海賊に『This is Japan Self Defense Force』と言っても通用しませんよ。『Japan Navy』と言えばすぐ逃げていきます」と言っていました。日本国内と「現場」ではかなり事情が違いますね。

自衛隊は戦闘行為をしてはいけないことになっているので、海賊と銃撃戦などはできません。その代わり、非殺傷兵器で海賊を追い払います。たとえば、きわめて指向性の高い「長距離音響発生装置」。何キロも離れた相手に向けて、耳をつんざくような不快な音を浴びせて追い払うのです。軍隊でないという縛りのもとで、苦労して国際貢献しています。