高齢社会ではイノベーションも起こらない
英エコノミスト誌から出されたとあるレポートが、ネット上で波紋を広げていた。
"It’s not just a fiscal fiasco: greying economies also innovate less"と題されたレポートは、そのタイトルのとおり社会全体の高齢化による影響は財政的な収支の悪化だけではなく、イノベーションの衰退にもつながっていることが述べられていた。そしてそうした悪状況に陥っている国の代表例として日本がたびたび言及されていたことで大きく注目を集めた。ウェブメディアでも取り上げられて話題を呼んでいた。
同記事は、経済の高齢化により財政的な負担が増すばかりか、革新的な技術が生まれにくくなる事実を懸念する内容だ。日本に限らず、世界でも近い将来に人口減少が想定される中、革新的な技術が生まれなくなることで生産性が低下し、成長率も押し下げられるという。(中略)
すでに述べたように、同記事の核心は「出生率が低下すること(≒人口動態が高齢化すること)でイノベーションが起こらなくなる」ことの問題で、世界経済全体がこれからその事態に直面する可能性があり、一部の国・地域ではすでにそれが始まっていることが、先行研究などとともに示されている。
[BUSINESS INSIDER「英エコノミスト誌、日本経済は高齢化で「頭脳停止」がすでに始まり、少子化対策も「政府は無力」と結論」(2023年7月3日)より引用]
とはいえ、こうした問題はエコノミスト誌に指摘されるまでもなくわかっていたことかもしれない。
「高齢者経済」を背負う若者たち
ご存じのとおり現在の日本では、若者のマンパワーが医療や介護といった「高齢者経済」の下支えのために吸い取られ、あるいはそういった分野に就業しなかった者も、給与や賞与の控除という形で「高齢者経済」のリソースを供与する役割を強制的に負わされている。またその負担は毎年のように重くなっている。
生活に余裕は当然なく、投資どころか貯蓄に回すような余力もなく、日々の暮らしを保っているのでやっとだ。国の経済的地位の低下が物価の高騰を招き、名目賃金は上昇している一方で実質賃金は一貫して低下を続けている。田舎で暮らす若者は、とりあえず大都市部に行かなければ仕事が見つけられないが、しかし東京をはじめとする大都市部では不動産(住宅)価格の高騰が続いており、かれらの所得では中古のマンションを持つことすら難しくなってきている。
はっきり言ってしまえば、こんな閉塞的な状況では「停滞や硬直を打ち破るような画期的イノベーションを起こす若き俊英」が現れるわけがない。