ロシアの年間軍事費の約10倍の金額が「年金・医療・介護」に消える

この国の社会保障費は2022年度の予算ベースで130兆円を超えており、しかもその内訳を見れば大部分(およそ100兆円)を年金・医療・介護が占めている。つまり社会保障とは実質的に高齢者福祉のための予算ということである。ちなみに3領域の予算規模の合計である約100兆円という数字は、いまウクライナ(ひいては背後にいる西側諸国)と1年以上戦争を続けている超大国ロシアの年間軍事費のおよそ10倍である。

【図表1】社会保障給付費の推移
厚生労働省「社会保障給付費の推移」より
【図表2】社会保障に係る費用の将来推計について

社会的な「医学部ブーム」の背景

こんな状況のなかでは、若者たちのチャレンジもイノベーションも起きなくて当然だ。

若者たちにチャレンジ精神旺盛なハイリスク志向をしてもらうためには、少なくともこの国の先行きに“希望”がいくらか持てるようにしなければならない。だが、統計データを見るとご覧の有様だ。人口動態の不安定化と社会保障費の拡大というダブルパンチは「どうあがいても絶望」にしか見えない。統計データを冷静に見られるような賢明で優秀な若者ほど「日本の未来を変えるチャレンジ」ではなく「自分が社会から搾取され使い潰されないための自己防衛」に奔走するのも無理もない。

客観的かつ合理的な判断力を持つ優秀層からすれば、こんな将来性のない国でリスクを冒すなどどう考えても道理にあわないように見える。医学部を目指すのが最適解になる。とりあえず医者にさえなれば(今後は医者も待遇が徐々に悪くはなっていくことは間違いないが)自分が生きているうちは安泰だろうし、自分とその家族が食っていけるくらいには稼げる仕事ではありつづける。医者すらも暮らし向きがダメになるときはいつかやってくるかもしれないが、それは日本そのものが完全にダメになったときだ。全社会的な「医学部ブーム」にはこうした背景がある。

社会保障とは名ばかりの「高齢者福祉」となり、高齢者を事実上の特権階級としてしまっている現在のシステムを抜本的に見直す政治的・社会的合意が得られなければ、この国の経済や社会は若返らないし、画期的な創造性やイノベーションが喚起される土壌は復活しない。