自衛隊が活動する場所は「非戦闘地域」のはずが…

2004年、まだ内戦が完全に終結していないイラクに派遣された際も、内戦が起きていないとされた南部地域サマーワが選ばれました。当時の小泉純一郎首相は野党から、非戦闘地域の定義を問われ、「自衛隊が活動している地域が非戦闘地域」と答えました。何の説明にもなっていませんね。「どこが非戦闘地域で、どこが戦闘地域か、いま、私に聞かれたってわかるわけがない」と答弁したこともあります。これほど曖昧な根拠で自衛隊はサマーワに派遣されたのです。

実際のサマーワでの活動がどんな状態だったのか、自衛隊は日報という形で記録して日本に送っていました。

2017年、防衛省は国会で「破棄してしまい、存在しない」と主張しましたが、陸上自衛隊と陸上幕僚監部で見つかり、翌年、存在を確認したと公表されました。非戦闘地域に派遣されたはずが、宿営地の近くにロケット弾が着弾したり、車列の近くで爆弾が爆発したり、危険な事態がいくつも起きていたことが記されています。

当初、防衛省が「破棄した」と主張したのは、「自衛隊が活動する地域では、戦闘行為は行なわれていない」という政府の見解とつじつまを合わせるため、イラク日報の存在を知られたくなかったからでしょう。

自衛隊の位置づけがあいまいなままでいいのか

こうして活動の範囲を海外へと広げてきた自衛隊にとって、次の転機になったのが、安倍政権下で認められた「集団的自衛権」です。

池上彰『池上彰の日本現代史 集中講義』(祥伝社)
池上彰『池上彰の日本現代史 集中講義』(祥伝社)

2015年、安全保障関連法(平和安全法制整備法)が成立し、「集団的自衛権」の行使が可能になりました。集団的自衛権とは、同盟国が攻撃された場合、自国への攻撃とみなして反撃する権利であり、国際法上も認められています。

歴代政権は「日本は集団的自衛権を保有してはいるものの、憲法の規定のため行使できない」という立場をとってきましたが、安倍内閣は「行使を容認」へと解釈を変更しました。集団的自衛権の行使を容認する人物を、法律と憲法の整合性を判断する内閣法制局の長官に据えることで、従来の解釈を変えてしまいました。

安倍政権は憲法を改正し、自衛隊を国防軍にすることを目指していました。その志は断たれましたが、戦後長らくあいまいなままにされてきた自衛隊の位置づけを日本国民が判断するときは、遠からず、やってくるのではないでしょうか。

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