今年3月、アステラス製薬の社員が3月に中国当局に反スパイ法違反の疑いで拘束された。具体的な拘束理由は明かされていないが、これまでの報道を総合するとどんな理由が考えられるのか。ジャーナリストの村上和巳さんが解説する――。
東京都中央区、医薬品メーカー大手のアステラス製薬のロゴマーク看板=2017年2月2日
写真=時事通信フォト
東京都中央区、医薬品メーカー大手のアステラス製薬のロゴマーク看板=2017年2月2日

製薬会社社員が「反スパイ法違反容疑」で拘束された

アステラス製薬の50代の日本人男性社員が、中国の北京で中国国家安全部に反スパイ法違反容疑で拘束された事件から約4カ月が経過しようとしている。

中国側は拘束直後、3月27日の定例会見で外務省副報道局長の毛寧氏が「スパイ活動に従事した疑いがある」と発言し、4月28日には駐日大使の呉江浩氏が「無実の人が拘束されたというような問題ではない」と語っているものの、この社員が何をもってスパイ容疑としたかの詳細は明らかにしていない。

この間、日本側は在中国日本国大使館が7月19日に4度目、かつ拘束後初の直接対面での領事面会を行い、本人の健康状態には問題ないことを確認し、中国側に早期の解放を求めているものの進展は見られていない。そして7月1日から中国は適用範囲を広げた改正反スパイ法を施行した。

アステラス製薬の社員がなぜ拘束されたかをここであえて考察してみたい。

条文が曖昧過ぎる中国反スパイ法8項目

まず、いま一度、中国の反スパイ法について整理しておく。同法は正式名称が「中華人民共和国反間諜法」で、2014年に制定された。制定当初の同法ではスパイ行為として、以下が規定されていた。

(1)中国の安全に危害を及ぼす活動
(2)スパイ組織への参加あるいはスパイ組織やその代理人の任務引受け
(3)国家秘密・国家情報を窃取、偵察、買収もしくは不法に提供する活動
(4)公務員に対して中国を裏切るよう扇動、誘惑、買収する活動
(5)敵に対する攻撃目標の指示
(6)その他のスパイ

そして今回の改正ではさらに以下が追加されている。

(7)国家の安全と利益に関わる文書・データ、資料や物品の窃盗行為
(8)国家機関や重要な情報インフラへのサイバー攻撃

一見、具体的に見えるかもしれないが、1番目に規定された「中国の安全」や改正で追加された7番目の「国家の安全と利益」の範疇は曖昧である。もちろん中国側からすると、これを詳しく条文化すること自体、国家機密が何であるかを例示する危険性があるとの論理は成り立つ。

しかし、この条文に曖昧さに加え、この社員以前に拘束された16人での事例の詳細がほとんど明らかになっていないこと、従来中国が法治というよりは人治の色彩が強いことも相まって、同法による摘発は他国から見れば「後出しじゃんけん」の印象は拭えない。