考えられる拘束理由その2

日本の政府・官庁などへの情報提供の可能性を疑われた?

拘束された社員は前述のように現地で中国日本商会の役員も務め、日中友好事業などの名簿にも頻繁に名前を連ねていた人物。この場合、単に製薬企業の中国駐在員が接触できるレベルを超えた高官に接触する機会は増える。さらにこの社員は、国内では経済産業省主催の研修で中国でのロビー活動などに関して講演を行った経験もある。

このため国の「安全と利益」に関わると中国側が考えるセンシティブな情報(あくまで中国基準だが)に接触する危険性は必然的に高まるし、そのうえで日本の官公庁との接触が明らかになっていると、日本という国の意図を受けた情報の収集・提供を行っていたとの疑念を抱かせる可能性が生じる。

考えられる拘束理由その3

承認審査を中心とした医薬品の規制情報の収集過程が法に抵触か?

個人的には最もあり得そうと考えているのが社業、より具体的には承認審査を中心とした規制情報などの収集が、中国側に反スパイ法への抵触と扱われた可能性だ。

現在、製薬企業による新薬の研究開発は年々難航し、ある化合物が動物実験、ヒトでの臨床試験を経て、医療現場に登場するのは実に約2万2000分の1の低確率。しかも、一般的に必要な開発期間は10~15年、開発費は約200億円と言われる。昨今では人工知能(AI)を利用した創薬も模索され始め、今後成功確率は多少上昇するかもしれない。しかし、それでも臨床試験開始後に有効性や安全性の問題で開発中止に至ってしまう事態が起こるのは避けられない。つまり臨床試験終了までの期間は不確定要素が多く、これを短縮することは容易ではない。

このため製薬企業が期待することの1つが、臨床試験を終えて各国規制当局に製造承認を申請した後の審査期間がより短縮され、結果として市場投入が早まること。当然、規制当局の動向は最大の関心事の1つだ。実際、日本や欧米でも製薬企業各社は官公庁をはじめとした関係各方面に接触して常に規制に関わる最新情報を収集している。