コンサルタントの付加価値に開眼した『週刊文春』の名物コラム
この「事実に基づいたデータの収集と客観性」という観点で非常に参考になる書籍がある。『ホリイのずんずん調査 かつて誰も調べなかった100の謎』(文藝春秋)という書籍で、堀井憲一郎氏というコラムニストによる『週刊文春』の連載を単行本にしたものである。
BCGに転職した直後、かなりの苦労をしていたのだが、先輩のIさんが、「『ホリイのずんずん調査』のような分析をやったら、結構盛り上がるよ!」と張り紙を掲示板に出していたのを見かけて、『週刊文春』を買って読んだのがきっかけだった。
戦略コンサルティングの仕事は、なんだかよくわからないうちに始まり、約3カ月など決められた期間内に最終報告という報告書を出す。それでもって、結構な金額をいただく仕事だが、ドキュメント以外に製作物があるわけではない。
当時30歳そこそこの私が、大企業の経営トップに戦略の話ができるわけがなく、コンサルタントとしてどうやって付加価値をつけるのかについては、まったく謎であった。
すべてが謎のまま、うっかりBCGに入社してしまったので、当然悪戦苦闘し、大いに悩んでいたところで出会ったのが、『ホリイのずんずん調査』であった。
当時は、すべてにおいて同期に一番後れを取っていると自覚していたので、なんでも素直にやってみるということがよかったのかもしれない。『週刊文春』で連載されていたコラムを読んで、「なるほど、コンサルタントとして付加価値をつけるというのは、こういうことか」と目から鱗が落ちた。
若手コンサルタントが大企業トップに話を聞いてもらう方法
私がBCGに入社したのは1995年10月。その当時から、堀井氏のコーナーが連載されており、2011年まで16年間、いろんな調査結果が掲載されていた。
これが生半可な調査ではなかった。絶対に足で稼がなければ得られない調査結果だったのだ。しかも調査結果だけでなく示唆まで出しており、もはやコンサルタントがクライアントに提出する報告書レベルのものである。
一番衝撃を受けたのは、吉野家の各店舗における牛丼のつゆの量を調べる調査だ。
内容としては154店舗回って、各店舗で提供される「並」の牛丼に入っているつゆの量を調べ、分析する回である。挙げ句の果てに、吉野家の本部に分析結果とデータを持参し、並しか頼んでないのに、店舗によりつゆの量が大きく違うことを指摘していた。
吉野家の社長はもちろん、専務や常務も知らないかもしれないことを、現場を回って調べまくるわけだ。
「これか! これだったら俺でも頑張ればできる!」
現場で起きている事実は、経営陣は知らないことが多い。
彼らが知らないことは、価値になり得る。
これを集めることができるのは、外部の人間であり、体力もある若いコンサルタント、つまり、私のことだ、ということで、『ホリイのずんずん調査』を読み漁り、「よい分析とは何か」を考えながら、試行錯誤した。
コラムの連載は、2011年に終了してしまったが、先に触れたように書籍となっていて、今でも時々読み返す。読めば読むほど分析の面白さが感じられる名著である。
若者が、クライアントの経営層に経験でものを語るのは難しい。
だが、足で稼いだ現場の情報とその分析から導き出した仮説を話すことができれば、十分に対峙できる。相手も話を聞いてくれるようになる。