仮説本を何冊読んでも仮説を思いつけるようにはならない

当時、BCGの転職組の同期よりも、はるかに後れを取っていると認識していたので、暇さえあれば、経営関連の本を読んでみた。

今では仮説本はたくさん出ているが、1995年当時、そんな類の本は見当たらなかった。

しかし、仮説本を読んだからといって仮説がどんどん湧いてくるということは、まずありえない。

BCGからコンサルタントとしてのキャリアを始め、そこからドリームインキュベータの創業に参画し、社長も経験するなど、25年も戦略コンサルタントをやっていたので、人より仮説が湧いてくるスピードは早いとは思うが、仮説本や経営本を読んだだけで仮説が湧くようになったとはまったくもって思えない。

それよりも、『会社四季報』を10年分丸暗記する(「四季報丸暗記」と名付けている)とか、『日経ビジネス』や『日経コンピュータ』『日経エレクトロニクス』などのビジネス雑誌の記事や、そこに掲載されている広告を精読したことのほうが、はるかに仮説構築力の養成には役に立っている(なお、「四季報丸暗記」は意味があると思って実践したのではなく、諸般の事情でたまたまやっていただけだった。しかし、この偶然が私のコンサルタントとしてのキャリアを支える礎になった)。

広告は、その時々のマーケット状況を反映するので参考になるし、ビジネス雑誌にはとにかく事例がたくさん載っている。言ってみれば、これらは「事例の宝庫」であり、それらをインプットすることが仮説構築力の源泉となる。

「四季報丸暗記」で、企業のデータが頭の中に格納されることは、仮説構築において非常に重要である。

たくさんの事象や事例をパターン化して頭に格納していると、仮説が湧きやすいからだ。多数の事例を格納した後に、仮説本を読むのと、頭の中に事象も事例も大してインプットされていない状態で、仮説本を読むのとでは大きく効果が異なる。

インプットが多ければ精度が上がるのはAIも人間も同じ

AIもたくさんのパターンを覚え込ませるほどに精度の高いアウトプットを導き出すように、たくさんの事象を頭にインプットしておかないと、新たな事象に対して仮説は出ないのである。

そういう意味でも、頭の中にどれだけ事例や事象がインプットされているか。それをどのような形で整理しているかによって、仕事のスピードは大きく変わる。

ちなみに、このようにある事象、事物、自分の知識や経験を「何か似ているもの」にたとえることを「アナロジー」という。別の表現をすると、一見無関係な二つのものを見つけて、そこに関係性を見つけるということである。

アナロジーというのは仮説構築において非常に重要である。

一見、別のことと思える二つのものに共通のメカニズムが隠れていることは、よく存在する。

メカニズムを発見し、そのメカニズムをインプットしていくことで、さらにアナロジーがしやすくなっていく。仮説構築をより強固なものにし、スピードアップすることができる。