“世界の工場”の地位から陥落した

最近、世界の主要企業が中国から脱出し始めている。1990年代以降、中国はグローバル化の加速などを追い風に“世界の工場”としての地位を高めた。しかし、ここへきて人件費の高騰などもあり、明らかに中国はその地位から滑り落ちている。

中国国家主席
写真=AFP/時事通信フォト
2023年6月19日、中国の習近平国家主席(中国・北京)

8月3日、花王は中国でのベビー用紙おむつの生産終了に伴いリストラ費用として80億円を計上すると発表した。海外企業では、米フォードやインテルがリストラを実施した。フォードは追加のリストラ観測もある。韓国サムスン電子やLG電子も中国での生産体制を縮小した。軽工業から重工業、IT先端分野まで幅広い分野で、世界の主要企業の“脱中国”は鮮明だ。

中国が世界の工場としての地位から脱落したことは、わが国の経済にプラス・マイナス両方の効果をもたらすだろう。半導体分野では台湾や米国などの企業が地政学リスクへの対応や、高純度の半導体部材メーカーとの関係強化などを狙い、わが国への直接投資を実施した。それは、わが国経済にとってプラスだろう。一方、中国向けの輸出減少は、マイナスに作用する。

ただ、わが国はそうした変化を、わが国自身の経済成長率の向上につなげることを考えるべきだ。政府を中心として、リスクテイクをしっかりと支える産業政策を立案し、対内直接投資の誘致等に真剣に取り組むチャンスが来たといえる。

アパレル企業は中国→バングラデシュに

このところ、中国での事業体制を見直す世界の主要企業は増えている。2月、わが国ではグンゼが中国ストッキング生産子会社での生産終了を発表した。会社発表によると、ゼロコロナ政策の長期化などによってストッキングの需要は大きく減少した。グンゼはストッキングの生産を九州グンゼに移管した。

世界のアパレル業界でも中国から他の国や地域に生産拠点を移す企業は増えた。スペインのインディテックス(ザラの運営会社)や米ギャップなどはバングラデシュなどより人件費の低い国で生産体制を強化した。

自動車分野では、7月にマツダが一汽乗用車(第一汽車集団の子会社)への生産委託を終了したと報じられた。2003年3月からマツダは一汽乗用車に多目的スポーツ車(SUV)などの生産を委託した。しかし、ゼロコロナ政策が長引いたことや不動産市況の悪化などを背景に、中国市場の需要減少は想定を上回った。韓国の現代自動車も同様の理由により中国の一部工場を閉鎖した。