価格を引き上げても稼げない
一方、中国市場で企業が価格を引き上げる困難さは増している。富裕層向けの高級ブランドなどを除くと、多くの分野で需要減少は鮮明だ。経済成長率の低下に加え、ゼロコロナ政策によって人々の防衛本能は高止まりした。
2020年8月の“3つのレッドライン”実施以降、不動産市況の悪化に歯止めがかかる兆しも見出だしづらい。土地の譲渡益の減少によって、地方政府が景気対策を発動することも難しい。
中国の家計は債務の返済を優先し、節約志向が高まった。企業がコスト増加に合わせて販売価格を引き上げ、一定の粗利を確保することは難しい。むしろ、より高付加価値の製品を生産して粗利を拡大するために、中国から脱出せざるを得ない企業は増えた。
中国の需要は飽和状態にある
今後、中国向けの直接投資は減少基調をたどるだろう。コストの増加と需要減少に加え、共産党政権が海外の企業に製造技術などの移転を強要するとの警戒感も高まった。海外企業だけでなく、中国の民間企業も効率性の向上やより自由な事業環境の獲得を目指し海外進出を強化するだろう。
価格競争の激化から逃れるためにも、主要企業にとって脱中国の重要性は高まる。4~6月期、中国のスマホ市場ではトップスリーの“OPPO(オッポ)”、“vivo(ビボ)”、“HONOR(オナー)”の出荷台数が前年同期の実績を下回った。4位のアップルは、もともと価格帯が高い中で値下げを実施したことが奏功し出荷台数が増えた。中国の需要は飽和し、民生と企業向けの両分野で値下げ競争の激化は避けられそうにない。
主要先進国が産業政策を修正したことも大きい。わが国や米国、欧州委員会は経済安全保障体制の強化に欠かせない半導体の生産能力を引き上げるために、補助金政策を強化した。人口規模が小さい韓国や台湾の企業は、政策面からの支援を取り込みつつより多くの需要にアクセスするために、日米欧での事業運営体制を強化せざるを得ない。