韓国では、異常ともいえるペースで少子化が進んでいる。韓国生まれの作家シンシアリーさんは「上昇志向が強い韓国では、自分自身が完璧な親になれるまでは結婚も出産もできないと考える若者が多い」という――。

※本稿は、シンシアリー『Z世代の闇 物質主義に支配される韓国の若者たち』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

明洞
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韓国人に共通する「苦労は報われるべき」論

どの時代も韓国では、勝ち組たる存在になるための苦労が半端なく、しかも、そこにたどりつく道はいつも狭く、定員も少なすぎる、そんな社会でした。そんななかで、「苦労は報われるべきだ」とする「報償心理」が広がっていきました。

国語辞典にも載っていない言葉ですが、多くのメディアの記事、論文にも当たり前のように出てきます。苦労した分、その対価となるなにかをもらわないと気がすまないという心理のことです。アドラーの心理学などに出てくる「補償心理」とは、ちょっと意味が異なりますのでご注意ください。

日本語だと漢字が異なるので判別がつきやすいのですが、韓国語のハングル表記だと「報償」も「補償」も同じ表記で、しかも辞典に載っていない単語なので、すごく紛らわしいところです。

報償心理が広く蔓延し、暴走している

韓国社会には、この報償心理がものすごく強く、広く蔓延しており、「○○になれなかったら、なにか他の手段(本書でよく取り上げているものとしては不動産投資)で物質的な報償を受け取るべきだ」と考え、そうでないのは「正しくない」と認識してしまうわけです。

個人的には、報償というよりは、なにかの賠償に近いと思っています。「不当な手段を使った誰か」から賠償を受け取ろうとする心理、その「誰か」が具体的にどこの誰かもわからないまま、なにかの賠償を求める心理が、この報償心理の暴走に似ていると、私には見えます。

この報償心理(賠償心理かもしれませんがそこはともかく)の蔓延の大きな原因のひとつが、私教育の悪循環です。『CBSラジオ』に、出生率・少子化問題で出演したソウル大学保健大学院人口学のチョ・ヨンテ教授は、その原因として、「完璧な親シンドローム」というものを挙げています。(ネット掲載は2021年7月3日)