「どの人間がやるか」で戦略の優劣が決まる
前回述べたように、21世紀の経済社会で戦略を展開するには構想力が必要だ。新・企業参謀にとって、戦略の役割よりも構想力の役割のほうが重いといっていい。しかしながら構想力というのは、一筋縄では身につかない。なぜなら見えないものを形にする能力というのは、芸術家や音楽家の世界と同じで個人の資質や素養が大きくものをいうからだ。
『新・資本論』以降、私は「パーソン・スペシフィック(人材次第)」という言葉を使うようになったが、構想力が問われる今日の戦略というのはまさにパーソン・スペシフィックで、要は、「どの人間がやるか」にかかっている。
たとえば米アップル社のCEOスティーブ・ジョブズ氏。彼はパーソン・スペシフィックそのものだ。05年、ジョブズ氏はスタンフォード大学の講演で自ら膵臓ガンに侵され、手術を受けたことを告白したが、彼の健康問題で株価は動く。
彼のことは昔からよく知っているが、70年代にアップルを創業した頃の彼は少々才気走った単なる若者だった。しかし死の淵から舞い戻ってきてからのジョブズ氏は神懸かり的な構想力で、人が見ていない世界を見て、独自の事業領域を切り拓いてきた。素晴らしいのはマッキントッシュの原点を忘れずに、携帯やタブレットの分野に発想を広げていったことだろう。今後はお茶の間に進出してTVに革命を起こす、という臭いがする。
ピカソがなぜゲルニカを描いたのか、我々にはわからない。バルセロナのサグラダ・ファミリアはなぜ130年もの歳月をかけてつくっているのか、ガウディ本人に聞いても理解できないだろう。ジョブズ氏が見ている世界はそういう世界なのである。既存のフレームワーク(考え方の枠組み)では説明のしようがない。