ひたすら訓練を重ね自らを鍛え続ける

たとえば、「あなたがニコンの木村眞琴社長とすれば、かつてのシェアトップ商品(カメラや露光装置)が万年2位となってしまった現状をどのようにして打開するか」「あなたが中国のIAT(インターナショナル・アプリケーション・テクノロジー)の宣奇武董事長とすれば、世界の自動車産業を根本から変え、新興自動車メーカーとして市場に君臨するためには何をするべきか?」。

IAT社が10年4月の北京モーターショーに初登場させた、電気自動車のコンセプトカー。(AFLO=写真)

毎週日曜日の夜にこのような課題が出題されて、学生は1週間以内に、何らかの形で答えを出さなければならない。

RTOCSのポイントは2つある。一つは答えを導き出すためのデータや情報など最低限の材料を、全員が共有して使うということ。「IATって何だ?」「宣奇武董事長って誰だ?」というレベルから始まって、あらゆる材料を各自が世界中から集め、調べ尽くすのだ。これをやることで自分が戦略立案をする際の情報収集力・分析力がつく。

もう一つのポイントは「集団知」。最大50人のサイバー上のクラスメートが情報を持ち寄り「私ならこうする」と自由に議論を戦わせる。大学院の学生だけでも1週間に総計400~500の分析、考察、提案が出て、自分とは違う発想に数多く触れることができる。

このようにして1週間後の日曜日の夜、ライブのCS番組で「大前研一が木村眞琴だったら」、あるいは「大前研一が宣奇武だったら」という私の発想と考え方が発表される。翌週、次の課題が始まる一方で、振り返りのコーナーが設けられていて、私の解答をどう思ったか、比べて自分の解答は何が足らなかったのか、逆に自分のほうがよくできたと思う部分はどこか、などを振り返る。

こうしたお題を年間52本、2年の在学中に100本もやらされるから、卒業時にはそれなりの頭の回転と構想力が身につくのだ。クッキング・レシピのようなフレームワークにあてはめ答えを導き出していたら競争相手と同じ程度のことしかできない。ビジネス新大陸で新しい領地を切り拓くには人の見えていない土地に杭を打ち込んでいくしかない。

構想力は、常に観察し、考察し、深く考え、他人の意見を聞くと同時に反発し、自らを鍛え続けることで身につく。その訓練を重ねてこそ“見えない世界”が見えてくるのだ。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 的野弘路=撮影 AP・ロイター/AFLO=写真)