戦略的思考の基本は1に観察、2に観察
事実、私がスタンフォード大学で教鞭をとっていた頃、頼まれてほかの教授のケーススタディに何度か参加したが、そういうシーンに何度も出くわした。学生3人寄ればどんな先生もかなわないくらいの最先端の知識と構想が出せるのがスタンフォードの凄さ(先生方の悩み)だ。
その昔、マッキンゼーの同僚であったトム・ピーターズ氏が『エクセレント・カンパニー』などを書いていた頃、私は彼に「君の分析はかったるい。7Sとか8つのベーシックとかいろいろ言っているが、要するにエクセレント・カンパニーはエクセレントな経営者がつくる、と言ったらおしまいじゃないか」と言ったことがある。彼の答えは「その通りだ。しかしそれでは3行で終わってしまう。面白くない」というものだった。当時から私はパーソン・スペシフィック論者、彼はフレームワーク論者だった。
もちろん私とてフレームワークをすべて否定するものではない。標準的なフレームワークは知っておくべき必要性がある。しかし、ビジネススクールで仕込まれたフレームワークだけを当てはめれば、何でも答えが出ると思ったら、頭が硬直化し、現実を見つめることも答えを導き出すこともできなくなるのが21世紀なのだ。フレームワークを持ち出した瞬間に思考はフリーズし、当然、構想力もイマジネーションも掻き立てられない。
今の若いビジネスマンに言いたいのは、戦略的思考を磨きたいのなら、「自分の目で現象を見ろ」ということだ。勉強の基本は1に観察、2に観察である。若い頃、自然科学を勉強した私が戦略をいろいろ考え出すことができたのも、観察する習慣がついていたからである。
世の中では従来の戦略やフレームワークでは推し量れない様々な現象が起きている。それを自分の目で確認する。業績の好調な企業は何をやっているのか。優れた経営者というのはどのように変遷し、その人たちはどんな特徴を持っているのかを、自分なりに勉強するのだ。
大事なのは自分が見ている現象を自分自身で説明できるかどうか。たとえば、スティーブ・ジョブズという人間が何をどうやって生きているのか、きちんと説明できるかどうか、である。
今の時代に新しい事業をつくり出す人たちは、他人には見えないものを見て、行動に移している。行動の原点に何があるのかを研究して、構想というものに対する感度を高めることが大切なのだ。
ケーススタディで学ぶことを否定はしないものの、前述のように“鮮度”が極めて重要になる。最良なのはリアルタイムのケーススタディだ。私のBBT大学院大学では、リアルタイム・オンライン・ケーススタディ(RTOCS)を毎週実施している。RTOCSでは、今まさに企業が直面する問題を対象に出題される。