私はこれまでに企業戦略や国家戦略に関する本を数多く著してきたが、大前流戦略論の原点といえるのが35年前に出版した実質的な処女作、『企業参謀』(プレジデント社刊・1976年、英訳版『マインド・オブ・ザ・ストラテジスト』(マグロウヒル刊))である。
米マサチューセッツ工科大学の博士課程と日立製作所で原子力工学を専門にしていた私が、マッキンゼーに入社したのは29歳のとき。右も左もわからない世界で、経営について科学的な視点で自分なりに気づいたことや学んだことをメモに書き留めていた。それを活字にしたものが『企業参謀』だ。
本書で私は企業戦略というものを「競争相手との相対的な力関係の変化を、顧客の望む方向に自社にとって相対的に有利かつ持続できるように変化させるべく計画する作業」と定義した。そして、この力関係を変化させる方法論として、「成功のカギ(KFS)に基づく戦略」「相対優位に基づく戦略」「新機軸の展開による戦略」という3つの戦略を挙げた。マイケル・ポーター氏のバリューチェーンなども『続・企業参謀』に出てくるKFSの連鎖であり、「競合優位の戦略」などの出発点にもなっている。
自社(Company)、競合(Competitor)、顧客(Customer)という三者の視点から相対的に事業環境を分析し、戦略立案することの重要性も説いた。今日、あらゆるフレームワークの基本形として使われる「3C」の概念もここが出発点だ。
『企業参謀』で示した戦略論やフレームワークは、その後、成功の方程式として洗練を重ね、発展を遂げてきた。しかし、21世紀になって最初の10年が経過した今日、そうした戦略論やフレームワークは、もはや成功を約束する方程式ではなくなっている。