性別役割分業意識に沿うように妻が行動を変える

この理論は、カリフォルニア大のジョージ・アカロフ教授(2001年にノーベル経済学賞を受賞)とデューク大のクラントン教授によって提唱された理論です(*2)

この理論では、各個人は、自分の属する社会グループで正しいと考えられる行動(社会規範)と合致した行動をとり、社会規範と異なった行動をとると、自分だけでなく、他者からも不安や不快感を呼び、行動の修正を迫られることになると指摘します。要は、人と違うことをすることにペナルティが発生し、結局みんなと同じ行動をとらざるを得なくなるわけです。「こんな場合はこう行動する」という社会規範が人々の行動に制限を設けているという考えです。

この理論を使うと、妻が主な稼ぎ手になった場合になぜ妻の家事労働も増えるのかという現象も説明できます。

妻が主な稼ぎ手になるということは、「妻は夫よりも稼ぐべきではない」という性別役割分業意識と相反することになります。これは自分だけでなく、夫や周囲からも不安や不快感を呼んでしまう恐れがあります。これに対処するために、社会規範に沿うよう妻が行動を変えるわけです。この結果として、妻が家事・育児時間を増やすことになります。

自宅で洗濯物をたたむ女性
写真=iStock.com/maroke
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リーマンショック後も家庭に縛られる既婚女性

さて、坂本准教授と森田教授は、リーマンショックの前後で妻の収入割合と家事・育児時間の関係に変化が生じていないかという点も分析しています。分析の結果、リーマンショック前では妻の収入が63.26%を超えると妻の家事・育児時間が増加したのですが、リーマンショック後では妻の収入が61.65%を超えると妻の家事・育児時間が増加していたのです。

つまり、リーマンショック後だと、妻の収入割合がやや少ない時点で家事・育児時間を増やすようになっていました。この結果は、リーマンショックといった未曽有の経済危機の後でも日本の既婚女性は、性別役割分業意識の影響を受け、家庭に縛られていることを意味しています。

日本の性別役割分業意識の根深さを示す結果だと言えるでしょう。