最新研究でわかった意外な2つの事実
実は最新の研究でこの実態が分析されており、興味深い結果が得られています。
分析を行ったのは、群馬大学の坂本和靖准教授と名古屋市立大学の森田陽子教授です(*1)。この研究では、1993年から2016年までの59歳以下の日本の夫婦のデータを使用し、「妻は夫よりも稼ぐべきではない」という性別役割分業意識が女性の就業や家事・育児に及ぼす影響を分析しました。
この分析の結果、意外な2つの結果が明らかになったのです。
夫よりも稼げる可能性のある妻はそもそも仕事をしない
まず、1つ目は、日本の既婚女性は、「妻は夫よりも稼ぐべきではない」という考えに影響され、夫よりも高い所得を得る可能性があると、そもそも働きに出ない傾向があったのです。「えっ! そんなことあるの?」と思われるかもしれませんが、夫よりも高い所得を得る確率が高いと、妻の就業確率が確かに低下していました。
妻は、夫との関係を考え、あえて働かないという選択をしていたと考えられます。
この結果は、働ければ高い能力を発揮する女性が性別役割分業意識の影響によって、その能力を示す機会を失っていたことを示唆しています。
ただし、坂本准教授と森田教授の分析では、この傾向が時代とともに変化し、2008年のリーマンショック以降、妻が仕事をしなくなる傾向が弱まっていることも明らかにしました。経済環境が悪化したリーマンショック以降、夫の所得を超えることを気にせずに妻が働きに出るようになったのです。
リーマンショックという「100年に一度の経済危機」は夫婦の働き方にも大きな影響を及ぼしたと言えるでしょう。
妻の収入割合が約60%を超えると妻の家事労働は増加する
2つ目は、世帯所得に占める妻の収入割合と妻の家事・育児時間の関係に関する結果です。坂本准教授と森田教授の分析の結果、妻の収入割合が増えるほど、妻の家事・育児時間が低下したのですが、妻の収入割合が約60%を超えると、妻の家事・育児時間が逆に増加することがわかりました。なんと、妻が主な稼ぎ手になった場合、妻の家事労働も増えるというわけです。
多くの方が「妻が主な稼ぎ手なら家事・育児時間が減ってもいいはずなのに、なぜ逆に増えるの?」と疑問を持たれるのではないかと思います。
実はこの妻の行動を「アイデンティティの経済学」という経済理論で読み解くことができます。