「保護農政」では日本の農業は発展しない
不足を補うもう一つの手段として期待が集まるのが、ロボット。国内では複数のスタートアップがキュウリの収穫ロボットを開発中だ。ただし社会実装されるにはまだ時間がかかる。
要するに、現時点で労働力不足を解決する特効薬はない。従業員の待遇を改善し、魅力的な職場を作る。農業でバリバリ稼ぐ姿を見せて「自分も」と思う若者を増やす。そんな下村さんの戦略こそが長い目で見て最も有力な解決策なのだ。
従業員に高い給料を払う。そのために利益を確保する。利益を確保するには、栽培の生産性を高めると同時に再生産可能な販売単価を実現する――。下村さんはこんなふうに逆算し、ビジネスモデルを築いてきた。
日本の農家はこの逆をやってしまいがちだ。販売単価が安いので利益が確保できず、給料が安くなって働き手がいなくなるという悪循環に陥る。
原因をたどっていくと、国による「保護農政」に行きつく。保護農政は、補助金や高い関税、あるいは農産物の価格を意図的に高止まりさせる「価格支持」により農業を保護する政治をいう。
日本は商工業が栄えた分、生産性の低い農業を財政的に支える余裕があった。消費者は長年、農産物を高く買うことで農家の生産費を支える価格支持への協力を強いられてきた。知らぬ間に「消費者負担型農政」に巻き込まれていたと言える。
ところが低所得者層が増え、岸田首相は昨年9月、「食品へのアクセスが困難な社会的弱者への対応の充実・強化を図る」よう指示を出した。消費者負担型農政が限界に近付きつつある。財政面でも、財務省が農水省の一部予算に持続可能性がないと公然と批判している。保護農政の継続が危ぶまれており、農業を産業として自立させることが避けがたい流れになっている。