徹底したデータ農業で効率を極め、無駄を省く
県農業技術センターは高知県の農業関連のさまざまな試験場を統合して作られた。農業に関連する試験、研究や品種の育成などを担う。高知県はデータを取得、活用する「データ農業」の普及が全国で最も進んでいる。同センターはその一翼を担ってきた。
下村青果商会の販売方法は、一般的な卸売市場を経由した流通に乗せず、量販店や加工業者向けに全量を契約栽培している。キュウリは豊凶の差が出やすく貯蔵できないので、相場が大きく変動する。その乱高下に巻き込まれていては再生産がおぼつかないと、自分で値決めできる契約栽培を選んだ。
設備投資に関してはコストカットを徹底する。ハウスを新設した際は、必要最小限の仕様にすべくクギ一本に至るまで下村さん自ら指定した。設備も最低限にして費用を抑える一方、ハウスに多くの光を取り込んで作物の光合成を促進することは「給料が増えるのと同じ」(下村さん)だと強くこだわる。
ハウスには光が均一に入りやすいフィルムを使い、影を少しでも減らすため骨材の間隔を通常より空けている。地面を覆うマルチシートを白色にし、反射光も光合成に生かす。秋から冬は日射量が減るため、11月になるとフィルムの汚れを洗浄して少しでも光が入るようにする。
同社の技術力と収益性の高さは有名で、視察や同業者からのコンサルティングの依頼が多い。
夏の3カ月は給料をもらいながら勉強ができる
だが、雇用となるとにわかに鷹揚になる。高知では夏の3カ月間、暑いうえに相場が下がるためキュウリを栽培しない。
従業員にとって夏の3カ月は「会社から給料をもらって勉強する」(下村さん)期間だ。作業がなくても毎日出社してもらう。
「よくやってもらうのは、近くにある高知大学の図書館の本を読んでレポートを書くということ。独立を希望している従業員も多いので、農業に限らず簿記や経営などの内容でも構いません。これは勤務としてやってもらっています」
YouTubeで栽培技術の参考になるような農業系の動画を見て勉強してもらうこともある。それだけ手の空く期間があるなら季節雇用にする手もありそうだが、下村さんは全員の周年雇用にこだわる。理由は「高知県は農業以外にこれといった産業がなく」、自らが農業を営む理由を「雇用をつくるため」だと考えているから。
「高い給料を夏も含めて払える程度に利益を確保しているという言い方もできますね」
面積当たりの従業員数が多いのは、周年雇用だけが理由ではない。「将来、独立して農業をしたい人を積極的に雇用し、技術や販売などの面でサポートしている」からでもある。