ライバルが増える独立支援も積極的に行う

従業員のうち4人が独立志望者。うち1人はすぐ近くの空いたハウスに居抜きで入り8月に独立する。

「栽培技術はうちで学んだことを継承してもらって、販路については同じ契約栽培のグループに入ってもらう見込み」

人材育成をして独立させることは、従業員と同社の双方にメリットがある。従業員にとっては給料をもらいながら独立の準備ができ、独立後に売り先に困る心配がなくなる。同社にとっては後進の育成になると同時に、取引先と契約できる量を安定して確保できるようになる。

「独立就農はある意味ライバルが増えることになるので、そうさせたくない、自社で人材を囲っておきたいという考え方もあるでしょう。それでは視野が狭いと思いますね」

こう語る下村さんはどこまでも攻めの姿勢を貫く。

最低賃金853円の高知にとって基本給20万円は「破格の待遇」

給料の設定も攻めている。「農業法人としては、給料の平均がおそらく高知県一」なのだ。

直近で募集した幹部候補生の基本給は20万円だった。農業法人の従業員の給与の全国平均は年間151万4000円、月にならすと12万6167円(農林水産省「令和3年営農類型別経営統計」による)なので、待遇はいい。

なお、南国市職員の初任給は高卒で14万600円、大卒で16万2100円である(いずれも2022年4月時点)。賞与もあるので単純に比較できないが、いずれにしても22年度の最低賃金が全国33位の853円である高知県にあって、同社の待遇がいいと分かる。

「必然的に人が集まってきやすいですよね」

待遇の良さもあってか「独立志望者以外は基本的に辞めない」。従業員の独立就農に伴って求人を出すとすぐ応募があるので人手不足とは無縁だ。

下村さんは今年、大きな決断をした。県外の異業種企業に対し、M&Aによる株式譲渡をしたのだ。新規就農した当初から「日本一のキュウリの生産企業になる」と決めていた。就農時と比べてすでに5倍の面積まで拡大したものの、さらなる拡張に難しさも感じるようになっていた。

「自己資本だけで規模を大きくしていくのは限界がある。信用力や資本力が大きい資本の傘下に入れば、すぐさま事業の規模を2、3倍に拡大することができる。将来的に10倍といった桁違いのスケールの事業ができるのが、魅力ですね」

従業員の雇用を維持、拡大するという自らに課した責任を果たすためにもM&Aが必要だと判断した。

M&Aに伴って代表の立場からは退いたが、同社は引き続き下村さんが確立したビジネスモデルの下で経営を行う。下村さんと新代表は生産量や売り上げを引き続き伸ばすことで一致している。