「厚生年金制度」が官僚たちを勘違いさせた

このような有様に至ったことは、その起源をたどれば必然であったように思う。

そもそも公務員を対象としていた年金制度が民間人にまで拡大された厚生年金制度は、戦争がなければ存在することがなかったかもしれない、余計なものだからだ。

実際に支払いが本格化するまで、当初、年金制度は、ほとんど問題にならないものだった。

ところが、政府は本来手元になかった、民間人の老後の人生のための莫大ばくだいな資金を、一時的に手にするようになった。

そのことで、多額のキャッシュと利権に目がくらんだ官僚が、「人々の人生が終わるまでの設計ができる、神のような力」を自分たちが持ったと思い込んでも不思議ではなかった。

彼らはそれが、政府の能力を超えた分不相応な試みであることは、見て見ぬふりをしていた。

軍人や公務員はその一生を「政府」という限られた空間の中で過ごす人々である。

そのため、当初の年金制度のように、公務員の人生が老後まで「政府によって設計されたの」であったとしても、自然だと言えるだろう。

政府の一部としての仕事しかできない公務員のために、年金制度が当初から用意されていたことは一定の理屈が立つ。

保障の代わりに自由を奪われた

一方、第二次世界大戦まで、民間人は人生の老後においても、自由意思と自己責任で生きていくことが前提とされていた。

ところが、政府は日本国民を戦争遂行の道具として、政府管理の下に一時的に組み込んでしまうことになった。

結果として、政府はそれらの人々の老後管理にまで責任を負うことになってしまった。

渡瀬裕哉『社会的嘘の終わりと新しい自由』(すばる舎)
渡瀬裕哉『社会的嘘の終わりと新しい自由』(すばる舎)

現在でも、年金の財源問題などは常に政治的議論の対象となっている。

が、なぜそのような議論が必要かという根本を振り返ってみれば、「最初から無理筋の計画であったから」に他ならない。

総力戦体制の中で、人々の人生の自由が奪われたこと、その結果として民間人が事実上の公務員、すなわち政府が一生の面倒を見る存在になってしまったことが原因なのだ。

そして、令和の時代になっても、政府は過去の時代に人々から奪ってしまった「老後の自由」の管理に躍起になっている。

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