なぜ年金制度が危機に瀕しているのだろうか。早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉さんは「厚生年金は役人の老後設計のために始まったが、それが国民全般に広がってしまった。あらゆる人の老後管理にまで政府が責任を負うというのは、最初から無理筋だった」という――。
※本稿は、渡瀬裕哉『社会的嘘の終わりと新しい自由』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
年金制度が少子高齢化の遠因
日本の福祉国家化への道は「揺りかごから墓場まで」が本格的に提唱される以前、戦前からスタートしていた。
ここでは、その代表事例として年金制度を見ていこう。
「人生の最後の瞬間までどのように稼ぎを得て暮らすか」というのは、人生における重要な課題である。
人類の歴史において、多くの国民は、親の庇護、大人として自立、そして老後には家族の支え、というプロセスで過ごしてきた。
特に老後の人生のあり方は、伝統的な家族制度や相続制度の形にも関連し、社会の根幹を成してきたと言っても過言ではなかろう。
しかし、年金制度は、その伝統的な家族や相続の考え方を大きく変えてしまった。
そして、実質的に少子高齢化などの社会構造自体の変化の遠因ともなっている。
もともと役人の老後設計のためのもの
なぜ年金制度は、このような社会変化を与えるインパクトを持っているのか。
その理由を知るために、年金制度の起源をさかのぼり、本質をつかむことは極めて有意義だ。
日本における年金制度は、軍人や官僚のための恩給制度として開始された。
1875年に初めて軍人向けの恩給制度が導入されたことを皮切りに、1890年に高級官僚向けの制度が整備されることになった。
その後も教師、警察、現業職員などの順番で、公務員向けの年金制度が次々に創設された。
つまり、もともと政府が創設した年金制度は、国民全般ではなく、自分たち役人の老後設計のためのものであった。