単独では生き残りが難しい寺院の「ホテル一体型モデル」
冒頭に述べたように、協同事業を通じて、ホテルのロビーには寺の装飾品をあしらい、本堂が見える設計にすることなどの独創的な発想が生まれた。朝のお勤めに宿泊客が参加できること、御朱印がホテルでもらえることなど、寺院一体型ホテルとしての特性を生かしたプランが次々と具現化していった。
見えないところの配慮も。本堂には、本尊阿弥陀如来が鎮座する。その上階にあたる客室では、本尊の上にベッドを置かないように注文をつけた。宿泊客が本堂に入れるのは、朝のお勤めの際と見学タイムの1日2回。ホテル内部に、読経や木魚などの音が漏れないように防音には特に気を配った。
お勤めは早朝6時40分からだが、宿坊のように参加が半ば義務付けられているわけではない。外国人への解説などは、ホテルスタッフが対応する。週末になれば30人ほどの参加者がある。なかには、「この寺にお墓を持ちたい」という宿泊客もいたという(浄教寺では墓地の新規受付はしていない)。
2020年から始まったコロナ禍は、京都にも大打撃を与えた。ホテルの開業は同年9月。浄教寺はホテルから賃借料を得るだけで、経営には関わっていないのでダメージはなかった。そのコロナ禍も落ち着きをみせ、いま京都は本来のにぎわいを取り戻しつつある。
最近では視察も増え、「浄教寺モデルを取り入れたい」と話す寺も現れてきた。
「保守的な寺の中には、冷ややかにみている僧侶もいるかもしれませんが、私はあまり気にしません。それよりも、若い僧侶たちが『勉強のために見学させてほしい』と言ってくるのがうれしいですね。お寺にとっては、厳しい時代かもしれませんが、それもやりようによっては飛躍できるチャンスかもしれません」
浄教寺に続いて、2021年1月には大阪の心斎橋御堂筋沿いにある三津寺(大阪市中央区)が、カンデオホテルズと一体化したビル建設に着工した。
三津寺は1933年築の伽藍の老朽化による建て替えの時期を迎えていた。そこで耐震補強などの修繕を施した上で、曳家工事によって本堂を移動。1階から3階までの吹き抜けに本堂をはめ込み、4階以上をホテルにするという構想だ。最上階の15階にはスカイスパを設ける。竣工は2023年9月を予定している。
また、本堂ではないが山門とホテルが一体化したケースもある。大阪市中央区の「南御堂」として親しまれている真宗大谷派難波別院では老朽化した山門の建て替えに際し、大阪エクセルホテル東急との一体型ビルを2019年に完成させた。17階建てのビルの5階以上がホテル、4階以下が寺院施設やテナントになっている。
寺院単独では生き残りが難しい時代だ。寺院の新たな価値創造にもつながりうる「ホテル一体型モデル」は、今後もきっと増えていくことだろう。