「檀家さんの負担を将来にわたってゼロにします」
本来であれば、伽藍と宿泊施設は別々の建物にするのが好ましい。しかし、境内地が狭い浄教寺には、2棟の建物を建てる余裕がない。そこで光山氏はビル1棟の中に、寺とホテルを同居させる手法を考えた。そして、ホテル側から決まった賃借料を得て、寺の護持に充てるという構想である。
どこの寺でも同じことだが、人口減少・高齢化社会にあって檀家の減少は免れない状況だ。浄教寺のように境内地が狭い都市型寺院では、新規で墓地分譲するにも限界がある。当面の間は寺を維持できたとしても、中長期的には「ゆでガエル」になることは目に見えていた。
不安がよぎったのは、京都の保守的な檀家がどう反応するか、であった。光山氏は、説明会を開いて丁寧に説明した。
「ホテルに入居してもらい、その賃料で寺を護持する体制をつくります。建て替えのために寄付は一切、いりません。年間の管理費も廃止し、檀家さんの負担を将来にわたってゼロにします。そのためのホテルとの一体型事業なのです」
光山氏のこだわりは、弱者に優しい寺に変えていくこと。堂内は冷暖房完備で、靴のままでお参りができる完全バリアフリーにする。車椅子や、ストレッチャーでも楽に参拝ができる設備にすることを伝えると、檀家の心に響き、一同に賛成してくれたという。
「浄教寺の檀家さんは、クールでドライ(笑)。それが、逆に助かりました。最初は驚かれていた方もいらっしゃいましたが、今では本当に喜んでもらっています」
光山氏は大学時代や銀行員時代のツテを頼って、再建事業をスタートさせる。なにしろ、これ以上ない好立地だ。東には髙島屋京都店が隣接。寺に面する寺町通りは、かつて「京都の秋葉原」と呼ばれた電気街で、常に若者やビジネスパーソンが大勢行き交う。なおかつ、競合しそうなホテルチェーンは、近隣には見当たらなかった。
光山氏のホテル構想には、6社ほどのホテルチェーンが手を挙げたという。しかし、うち4社は「多国籍の観光客が集まる京都にあって、特定の宗教施設の中で事業をするのは難しい」などとして、折り合いがつかなかった。
最終的には、「むしろ、お寺と一緒になるメリットは大きい。新規顧客が開拓できる」と、コラボレーションに強い意欲を示した三井ガーデンホテルを運営する三井不動産と、光山氏との考えが一致した。