“オンボロ寺院”を再生させた44代目住職は元銀行マン

シティホテルと「合体」して、寺をよみがえらせる――。こんな稀有な事例が、いま注目を集めている。京都市中心部にある浄教寺は近年、建物の老朽化によって存続が危ぶまれていた。しかし、ある元銀行員の住職が、寺とホテルとを一体化させる事業で再建に成功した。いま、商業施設を組み込んだ都会型寺院の再生モデルが、各地で広がりをみせている。

ほのかにお香の薫りが広がるラウンジ。随所に木のオブジェが飾られ、壁には墨で現代アートが描かれている。和洋折衷のモダンな空間は、いかにも京都のホテルらしいたたずまいをみせる。2020年9月に開業した「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」である。

ホテルのアプローチの奥に寺域が広がる
写真=浄教寺提供
ホテルのアプローチの奥に寺域が広がる

文字通り、寺とホテルが「同居」している。本堂とホテル1階ロビーとは壁一枚を隔てて隣接しており、ガラス窓がはめ込んである。浄教寺側からは宿泊客がロビーでくつろいでいる様子が観察でき、ホテル側からは本尊阿弥陀如来が鎮座する荘厳な宗教空間を、のぞき見ることができる。

ロビーの窓からは本堂がのぞける
撮影=鵜飼秀徳
ロビーの窓からは本堂がのぞける

「施設は一見、真新しく見えますが、元のお寺の部材を可能な限り再利用しました。本尊などの仏像や、釣り灯籠などは修復。劣化が激しかった曼荼羅まんだら図は最先端のデジタル技術を使って再現しました。工事の際の文化財調査で出てきた創建当時の鬼瓦や、頂相(高僧の肖像画)などの展示スペースも、本堂内に設けています。ホテルのロビーにも欄間らんま(鴨居と天井の間にはめ込む、透かし彫りされた板)や木鼻きばな(寺院建築における木の装飾)をオブジェとして飾り、宿泊客の評判も上々のようです」

浄教寺第44代目住職の光山公毅氏(53)は作務衣姿で本堂とホテルを案内しながら、説明した。ホテルのスタッフとも親しげに会話を交わす。古式然とした、一般的な寺の風情はここではまったく感じられない。

浄教寺がある場所は、商業地の公示地価において、京都で最高価格地の定番地「四条河原町交差点」から直線距離でわずか200メートルほど。東京で例えれば、銀座の東京鳩居堂のすぐ裏側といったイメージだ。

570年以上の歴史を有する浄土宗の古刹である。創建された室町時代は現在地から少し離れた場所にあったが、豊臣秀吉によって洛中寺院の整理・統合が行われ、寺町通り沿いの現在の地に移転した。浄教寺は、首都防衛の役割を担う寺だった。周辺には、そうした寺が多く点在しており、新しい商業施設と古刹が入り混じったエリアとなっている。

寺町通りからアプローチが延びており、手前にホテル、その奥にお寺らしい風情の境内が広がっている。広くはないが、境内墓地もある。入り口は寺とホテル用とで分けてあり、双方を行き来するにはいったん、外に出なければならない。

寺とホテルとが一体型となったビルは、地上9階建て。ビルの東側は浄教寺が占有し、1階に本堂や寺務所がある。一方で、ホテルは2階にレストラン、大浴場を備え、2階〜9階に客室167室を設けている。